"三千円の温泉旅行" 第4話
万円はせません
「目には、今回の旅先がいてあります」
私は声を荒らげずに続けた。
「き先は恵の湯。昼と入浴込みで千円。役員会で決めた内容です。鶴亀楼への変更は、会計としても役員としても聞いておりません」
話の向こうで矢野夫が苛った。
「あんな、誰も読み返さないわよ。とにかく万円持ってきなさい」
「できません」
「何ですって?」
「積は私のおではありません。町内会の皆さんから預かっているおです。役員会で決めた用途以に、私の判断で支払うことはできません」
しれたところで福田さんが私を見ていた。
私は携帯話をに当てたまま、会へさくうなずいた。
「午までに持ってきなさい。持ってこなかったら、あなたが積を使い込んでいるって町内に言いますからね」
そこで話は切れた。
私はしばらく画面を見つめ、それから息を吐いた。
福田さんがづいてきた。
「今の、矢野さんか」
「ええ。婦部の方たちは鶴亀楼にいるそうです」
福田さんの眉ががった。
「鶴亀楼?」
「万円を持って来いと言われました」
福田さんはく息をついた、の向こうを指さした。
「鶴亀楼なら……そこじゃぞ」
私は驚いて顔をげた。
恵の湯の庭の向こう、を本挟んだ先に、壁のきな建物が見えている。
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派なの横には《鶴亀楼》とかれた板があった。
つまり、私たちはすぐ向かいにいたのだ。
その頃、鶴亀楼では料理が次々と運ばれていた。
刺、焼き物、煮物、瓶蒸し。矢野夫は盛りまで追加し、酒も注文したという。
ところが美代さんだけは落ち着かなかった。
夫と来たはずの恵の湯が、この辺りにあったような気がしていたからだ。
事の途、彼女は窓際へった。
そして、きな柳のを見つけた。
その瞬、の記憶が戻った。
夫とで並んで写真を撮っただった。
さらにその奥には、古い造の宿が見える。
玄関には、はっきりと《恵の湯》の簾が掛かっていた。
駐には見覚えのある町内会のバスまでまっている。
「矢野さん」
美代さんの声が震えた。
「恵の湯……営業しているじゃありませんか」
部にいたたちが斉に窓のを見た。
矢野夫の表が固まった。
「主と来たも、あの柳があったんです。事で休みだっておっしゃいましたよね?」
「それは……予定が変わったのよ」
「でも、静子さんたちのバスがあります」
誰も箸をかさなくなった。
美代さんはバッグから、折り畳んだ案内状を取りした。
何度もいた跡がついていた。
そして目をゆっくり読みげた。
《き先 隣町温泉・恵の湯 昼・入浴付き 千円》
「ちゃんといてありました」
美代さんは静かに言った。
「私が読まなかっただけです」
矢野夫は「そんな古い宿の何がいいの」と吐き捨てた。
その言で、美代さんの表が変わった。
「私にとっては、くなった主と最にった切な宿です」
彼女は案内状をバッグへ戻した。
「私は向こうへきます」
そのにいたが、ほぼ同に顔を見わせた。