"「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた" 第8話
学歴信仰の崩壊と暴力の阻止
「な……盗み聞きしていたのか……」
義母が狼狽えてずさりした。しかし、義父はすぐにき直ったように品な笑いを漏らし、腕を組んでふんぞり返った。
「ふん! 聞かれたところで痛くも痒くもないわ! 学歴のないバカ息子と、子供も産めない愚図な嫁の代わりに、優秀な俺たちが孫をまともに教育してやろうっていう親だろうが! むしろ謝されて然るべき提案だ!」
義父はまるで自分たちの歪んだ企みが正義であるかのように胸を張った。、こうして「おのためをって言っている」という毒親特の詭弁で、琢磨のを支配してきたのだ。
だが、琢磨の拳はくなるほどく握りしめられ、その瞳にはもはや軽蔑のしか浮かんでいなかった。
「学歴、学歴って……あんたたち、をけばそればかりだな。派な学をて、派な企業で定を迎えたが、そんなに偉いのか?」
「当たりだ! 流学をたと、おみたいな流学卒とでは、の格が違うんだよ!」
「じゃあ、その派な学歴をお持ちのあんたたちが、なんで今こんな惨めな状況になってるんだよ!」
琢磨はにしたビジネスバッグのファスナーを気に引きけると、に詰まっていた分い茶封筒の束を力任せに引き抜き、リビングのへと叩きつけた。
広告
バサササッ!
乾いた音をてて、い散る類の。
赤いスタンプで太々と印刷された『最終督促状』、消費者融社からの『お借入残証』、そして賃滞納による『制渡し予告通』が、散乱するビールの空き缶や吸い殻のに無惨に広がった。
「な……な、なんだこれは……!?」
義父の顔からサッと血の気が引いた。に散らばる赤のを見つめたまま、老いた指先が刻みに震え始める。
「全部見せてもらったよ。あんたたちが旅の荷造りをしたに、階のクローゼットの奥から慌てて引っ張りして、に落としていったやつだ」
琢磨の鋭い言葉が、逃げのない刃となって義父母の胸元を容赦なく貫いた。
「消費者融からの借、わせて百万円。アパートの賃は半も滞納して、制退寸。……定退職して暮らしになったのに、見栄を張っての丈にわない活を続け、競馬や競輪に狂ってサラにをした挙句、む所すら失いかけてたんだろ!」
「ち、違う! これは……!」
掠れた声で類を掻き集めようとする義父の横から、義母がを忘れて叫んだ。
「こ、これは全部お父さんのせいよ! 定してから暇を持て余して、朝から晩までギャンブルに狂って借を作ったのよ! 私は関係ないわ!」
「お何言ってんだ!」義父が激して義母の肩を乱暴に突きばした。
広告
「おだってして着もしない毛皮だのブランドバッグだのをリボ払いで買い漁ってただろうが! おが浪費を止めないから賃が払えなくなったんだ!」
「あんたの競馬の負け額に比べたら雀の涙よ! 自分の甲斐性のなさを棚にげて、よくもそんなが利けるわね!」
互いの醜悪な秘密を暴しい、狭いリビングで罵声を浴びせう老夫婦。
そのあまりにも浅ましく、見苦しい姿を、琢磨は徹な差しで見ろしていた。
「もういいよ」
琢磨の静かな言が、の罵りいをピタリと止めた。
「借があるなら、自分たちで自己破産するなり雇いで働くなりして返せよ。俺たちを巻き込むな」
「な……何をたいこと言ってんだ!」義父が焦燥に駆られてってかかった。「親の借を肩代わりするのは子供の義務だろうが! このを売ったがあるんだろ!? 売却益で俺たちの借を全額返済して、しいで緒に暮らせば丸く収まるじゃないか! 親孝しろ!」
「そうよ!」義母もすがりつくようににる。「あんた、私たちを捨てる気!? 親を見捨てるなんて、じゃないわよ! 世体が悪くてきていけないじゃない!」
「じゃないのは、あんたたちだ」
琢磨の声には、もはやりすら含まれていなかった。ただ、端の汚を見るような、完全な拒絶の響きだけがあった。
「俺はもう、あんたたちを親だとはっていない。俺の族は、はる子とはる子の両親だけだ。を見し、傷つけることでしかきられない化け物たちと、これ以同じ空気を吸うつもりはない」
「き、貴様ァッ! 親に向かって化け物だと!?」
激昂した義父がを振りげ、血相を変えて琢磨の顔面を殴りつけようと踏み込んできた。
「琢磨!」私が叫んだ、その瞬だった。
バシィッ!
鈍い打撃音が響いた。
琢磨は微だにせず、振りろされた義父の腕を、自らのでガッチリと空で受け止めていたのだ。営業回りと父の運送会社の伝いで鍛えげられた歳の若い筋肉が、老いた父親の腕を万力のように締めげる。
「な……せ……! 痛い、折れる……!」
義父が脂汗を流しながら苦悶の声を漏らす。
「度と、俺たちに触れるな」
琢磨がたく腕を突き放すと、義父はバランスを崩し、ビールの空き缶ののに無様に尻もちをついた。
「こう、はる子」
琢磨は私のを力く握りしめ、度も振り返ることなく玄関へと歩きした。背から「待て! 警察を呼ぶぞ! 親孝者! 獄に落ちろ!」という狂乱の叫び声が響いたが、その声は閉ざされた玄関ドアの向こうへと完全に遮断された。