"「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた" 第4話
任せの温泉旅と密かな脱計画
「今夜、父さんたちに言う。をてってくれって。無理なら、俺たちがていくって」
玄関先でそう誓った琢磨の決は本物だった。しかし、にわたって培われた恐怖の壁は、あまりにもかった。
夕の片付けを終え、リビングのローテーブルに麦茶を運んだ、を決した琢磨がソファーのにち塞がった。
「……父さん、母さん。話があるんだ」
テレビ画面に映るバラエティ番組に線を向けたまま、義母はを鳴らした。
「何よ、突っって。テレビが見えないじゃないの。話があるならにしなさいよ、ドラマが始まるんだから」
義父もまた、競馬聞から線をげようともせず、ドスの利いた声でく唸った。
「なんだ、改まって。遣いの無ならお断りだぞ。体おは——」
「違う! そういうことじゃない!」
琢磨が声を張りげた。しかし、その瞬、義父がゆっくりと顔をげ、酷なで琢磨を睨みつけたのだ。
「あんだと? 親に向かって声を荒げるのか? 来損ないの分際で、偉そうに指図する気か?」
蛇に睨まれた蛙のように、琢磨の喉がヒュッと引きつった。呼吸が急激に浅くなり、握りしめた拳がガタガタと震え始める。言わなければならない。分かっているのに、がすくみ、言葉が喉の奥に張り付いててこない。
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く張っていく夫の横顔を見て、私の胸は張り裂けそうになった。
このままでは、また義父の声に押し潰され、琢磨のが完全に壊れてしまう。彼を守らなければ。
私は無識に、のに割って入っていた。
「あ、あの……!」
「なんだ、嫁の分際で。男同士が話してるところに割り込むな」
義父が忌々しそうに眉をねげる。咄嗟にた声だったため、私にも具体な言葉の用などなかった。何か言わなければ。このを切り抜け、かつ私たちの逃げを作るための、何か決定な言葉を——。
その、昨の朝に義母が『肩が痛い、どこか温泉でもきたいわねえ』と溢していた愚痴が、で脳裏をよぎった。
「……お父さん、お母さん。実は、琢磨と相談していたんです。いつもお世話になっているおに、温泉旅をプレゼントしたいなって」
リビングの空気が、ピタリと止まった。
義父が怪訝そうに目を細め、琢磨も驚愕して私を見つめている。私は背にや汗を流しながら、必で平然を装い、満面の笑みを作った。
「最、お母さんも肩がお辛そうでしたし、居のお祝いも兼ねて、名湯と言われる級旅館の泊の旅を予約しようとっていたんです。費用はもちろん、全額私たちが負担します」
義母の眉がピクリといた。「泊? 級旅館って、まさかっぽい民宿じゃないでしょうね」
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「とんでもありません! 呂付きの客で、朝夕お部の最級プランです。お父さんの好きな酒もみ放題でお付けします」
義父の険悪だった表が、みるみるうちに品な緩みを見せ始めた。
「ほう……。まあ、来損ないの息子夫婦にしては、ようやく親孝の真似事ができるようになってきたじゃないか」
「そうねえ。まあ、そこまで言うならってあげてもいいわよ。留守の、をピカピカに磨きげておきなさいよ」
はすっかり嫌になり、旅先で着るの算段を始めながら階へとがっていった。
嵐がったリビングで、琢磨がへたり込むようにに膝をついた。
「はる子……ごめん。俺、やっぱり父さんたちをにしたら、声がなくなっちゃって……。けないよな。でも、旅なんて本当にく、どこにあるんだよ?」
私はしゃがみ込み、琢磨のえ切ったを両で包み込んだ。
「謝らないで。琢磨がち向かおうとしてくれただけで、私は本当に嬉しかったの。……ねえ、琢磨。面と向かって刃向かうことだけが戦いじゃないわ。で言いくるめられない相なら、留守のに全部終わらせてしまえばいいのよ」
「え……?」
「泊。あいつらが温泉で贅沢昧しているに、私たちの荷物を粒残らず運びして、このから完全に消えるの」
私の瞳を覗き込んだ琢磨の顔に、驚き、そしてい納得のが広がっていった。
「で示すんだな……。言いなりになるのをやめて、俺たちので歩きすんだ」
「そうよ。私たちの逆襲は、あいつらが旅に発した瞬から始まるの」