"「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた" 第3話
私設老ホームの常と沈黙の限界
同居が始まってからの居の荒れようは、目を覆いたくなるものだった。
義父母は銭の活費も入れず、費も費もすべて私たちの座から引き落とされていた。そればかりか、朝をにえて配膳すれば、義母は子にふんぞり返ったまま箸をつけようともしなかった。
「あら、今朝は鮭の塩焼きなの? 今の私はクロワッサンの気分なのよね。朝から魚の臭い匂いを嗅がせるなんて、本当に気が利かない嫁。さっさとトーストでも焼いて作り直してちょうだい。卵は半熟のスクランブルエッグよ。かったら承しないわよ」
溜息をみ込み、キッチンでフライパンを温め直す私の背に、リビングのソファーから義父の声がなる。
「おい、チャンネル回すな! 競馬の継が見えないだろうが! なんだこの馬は、全然伸びねえじゃねえか、をドブに捨てたようなもんだ!」
義父は定退職してからというもの、リビングの特等席を占領し、テレビのリモコンを握りしめて競馬や競輪の番組を梯子していた。フローリングにはみ干したビールの空き缶が転がり、テーブルにはタバコのが散らばる。
掃除をしても、洗濯をしても、謝の言葉どころか「部の隅に埃が残っている」
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「息子の稼ぎで贅沢な暮らしをしやがって」と理尽な文句ばかりが返ってきた。
そんなあるの夕の席で、義母が茶碗を乱暴に置きながら、ぽつりと満を漏らしたことがあった。
「それにしても、このは駅からいわよねえ。歩いたら分もかかるじゃない。なんでこんな便な田舎町にを建てちゃったのかしら。もっと駅の便利なを探せばよかったのに。の悪い子は、の選び方ひとつ満にできないのかしらね」
義母はかける際、必ず琢磨にをさせるかタクシーを呼ぶため、駅を利用することなどほとんどない。ただ文句を言いたいだけの嫌がらせだった。
しかし、その言葉を聞いた瞬、私の胸のに微かな希望が芽えたのだ。もしかしたら、この便さを理由に、別の所へ引っ越してくれるのではないか。
「……そういえば、お母さん。駅のに、シニア向けのバリアフリーマンションがしく建ったみたいですよ。スーパーも直結していて、すごくみやすそうでしたけれど」
私が努めて穏やかに、何気ない調子で話題を振った瞬だった。
ガチャン!
義母が箸を激しくテーブルに叩きつけた。リビングの空気が、瞬で氷点まで凍りつく。
「……それ、どういうかしら? 私たちにてけって言ってるの?」
義母の目が、爬虫類のようにたく吊りがった。
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「私たちはね、来損ないのあなたたちのために、わざわざ緒にんで面倒を見てあげてるのよ! それなのに謝するどころか、親を追いすつもり!? なんて恩らずで図々しい嫁なの! 育ちが悪すぎるわ!」
隣で聞を広げていた義父も、聞をに叩きつけて鳴り散らした。
「はる子さん、あんた嫁の分際でよくそんなが利けるな! しい顔をして、腹のじゃ俺たちにさっさとくたばれとでもってるんじゃないだろうな! 親を老ホームにでも放り込む気か!」
「い、いえ、そんなつもりでは……!」
私が慌てて否定しようとすると、隣に座っていた琢磨が、絞りすような声でをいた。
「父さん、母さん、はる子はそんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ、の体のことを気遣って——」
「琢磨! あんたは黙ってなさい!」
義母の鋭い切り声が、琢磨の弁を容赦なく切り裂いた。
「誰のおかげで学までられたとってるの! 私たちがどれだけおにとをかけて尽くしてきたか忘れたの!? 今こそ親に恩返しをする番でしょうが! 親を養うのは子供として当然の義務よ!」
『恩返し』。
その決定な呪いの言葉が放たれた瞬、琢磨の肩がガクリと落ち、言葉を失って俯いてしまった。
幼い頃から、何か自分の見を言おうとするたびに突きつけられてきた、絶対な拒絶の印。
琢磨のののスイッチを制に切ってしまう鍵を、義父母は熟していたのだ。
私は拳を握りしめ、唇を噛み締めながら、が鳴り散らすのをただ耐えるしかなかった。
しかし、その夜、寝で毛布にくるまりながら、琢磨が暗のでポツリと呟いたのだ。
「……はる子、ごめん。俺のせいで、君までこんな目に遭わせて……」
「琢磨のせいじゃないわ」
「ううん、俺のせいだ。俺がいから、親父たちを止められないんだ。……でも、俺、もう絶対にあのたちの言いなりにはならない。何があっても、はる子を守るから」
暗ので握りわされた夫のは、たかったが、確かに力く私の指を包み込んでいた。
そして、運命の歯が、あの夕暮れの玄関でのをきっかけに、気に回り始めたのだ。