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"「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた" 第1話

玄関扉の向こうの嘲笑

夕暮れのたいが、宅の細いを吹き抜けていた。買いし用のビニール袋が指先にくい込み、ビニール越しに根やキャベツのたさがじんじんと肌へ伝わってくる。私——はる子は、つの夫である琢磨(たくま)と肩を並べ、真しい無垢材の玄関ドアのにっていた。

築特の、清々しい檜のりがほのかに漂う玄関ポーチ。鍵穴に鍵を差し込み、カチャリと音をててドアノブを回す。の寒さから逃れるように(たたき)へを踏み入れた瞬だった。

廊の先、わずかに隙のいたリビングの引き戸の奥から、音量のテレビの音を遮るようにして、障りな甲い笑い声がび込んできた。

「全く、どこまで買い物のろのろってんのかしらね。本当にどんくさいわ。バカ息子が選んだ嫁も、やっぱり底抜けのバカよねえ」

義母のかよの声だった。今で歳になる義母は、普段から甲い声での悪をまくしてる癖がある。その声には、者を見し、嘲弄することに慣れきった特の湿っぽさがへばりついていた。

髪を入れず、々しい缶ビールのプルトップを引く音とともに、濁った太い声がなる。義父の修造(しゅうぞう)だ。

「全くだ。バカ共と暮らすのは本当に疲れるな。

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卒でもない来損ないの息子に、笑いしか能がない愚図な嫁だ。揃ってペコペコをげるしか能がないんだから、見ているこっちの気が滅入る。あのが界に入るだけで飯がまずくなるんだよ」

ケラケラと、がリビングのソファーで顔を見わせて品に笑いう気配が、廊のたい板張りを伝って私たちの元に届いた。

私の隣で、スーパーの袋を両に抱えたまま靴を脱ぎかけていた琢磨の体が、ビクリと直した。抱え込まれた袋ので、ネギの包みがカサリと乾いた音をてる。

まただ。いつものことだ。

私たちは結婚してになる。私と琢磨は同じ会社の同期で、私は歳、琢磨は歳。職での琢磨は決して自分を誇示するタイプではなく、物静かで控えめだった。しかし、誰よりも誠実に業務をこなし、が嫌がる雑務をんで引き受け、周囲の細かなトラブルをさりげなくフォローする、温かく実直な柄だった。自己主張が苦で、どこか自分に自信を持てずにいる彼に惹かれ、私から告して結ばれたのだ。

しかし、彼のその極端な自己肯定のさは、まれつきのものではなかった。まさに今、リビングで酒をみながら息子の悪で盛りがっている実の両親によって、にわたり徹底に刷り込まれた呪縛だった。

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「おは本当にが悪い」「誰のおかげで飯がえているとっている」「親のすねをかじることしかできない役たず」

義父母は学歴と世体への執着が異常にく、方の私学を卒業した琢磨を「族の恥」「来損ない」と決めつけ、精神に踏みにじり続けてきた。琢磨は何を言われても反論せず、ただ俯いて嵐が過ぎるのを待つことしか教えられてこなかった。そしてその理尽な刃は、結婚と同に嫁である私にも容赦なく向けられるようになっていたのだ。

だが、引き戸の向こうから漏れ聞こえてくる会話は、いつもの常なの域を遥かに超えていた。

「それにしてもさ、はる子さんにはいい加減、孫を産んでもらわないと困るわね。まあ、孫がまれたら即座に取りげて、私たちが元でしっかり教育して育てるけどね」

義母の酷な言葉に、義父が喉を鳴らしてビールを煽りながら同調する。

「当たりだ。あんなバカ共ので育てさせたら、またロクでもないができるだけだからな。だが母さん、結婚しても子供ができないってことは、あの嫁の体に致命な欠陥があるんじゃないか?」

「そうに決まってるわよ。もしそうなら、はる子さんなんてさっさと追いして、琢磨には私たちが選んだ柄のいい女と再婚させればいいのよ。

子供を産む具としても使えない嫁なんて、このに置いておく価値もないわ」

息が止まりそうだった。血の気がサーッと引いていき、の指先から全が氷に浸されたようにえ切っていく。

子供がいないのは、私に欠陥があるからではない。このを建てるためのを貯めようと、で夜遅くまで共働きを続け、綿密に族計画を話しってきたからだった。それを、私のそのものをゴミのように扱い、子供を取りげる、追いす、別の女と再婚させる……。

をここまで平然と踏みにじる言葉が、この世にあるのだろうか。

りで拳を握りしめ、震える指先をじっと見つめていただった。

横にいた琢磨の息遣いが、らかに変わった。普段ならどれほど理尽な暴言を浴びせられても、たださくなって耐えていた彼の背が、まるで凍りついた鉄の棒のように真っ直ぐに張り詰めていた。

に落ちるほどの暗いを落としながら、琢磨の唇から、をうようない呟きが漏れた。

「……もう、限界だ」

それは、抑圧され続けてきた男の魂が、音をてて千切れんだ瞬だった。

琢磨は抱えていた買い物袋を、音をてずに玄関のたたきへとろした。そして、充血した瞳をゆっくりと私に向け、掠れた、だが刃物のように鋭い声で言った。

「……引っ越そう。あいつらから、今すぐれるんだ」

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