"三十八年目の帰る場所" 第2話
、笑ってきた理由
を乗り継いでほどすると、窓のから背のいビルがしずつ消え、代わりに田んぼが広がり始めた。さらにしばらくると、くに青くるが見えた。
私は窓際の席に座り、流れていく景を眺めていた。
をた直は、胸のどこかに罪悪が残っていた。幸は洗濯の使い方さえまともにらない。彩佳は泊まりに来ているとはいえ、連休が終われば自分のへ帰る。そうなれば困るだろう。
以の私なら、そこで引き返す理由を探したかもしれない。
けれど、そのは違った。
かの来事が、何度ものに浮かんだからだった。
幸の母の回忌の。
親戚ほどが、がのに集まっていた。
義母はくなるの、ほとんど寝たきりだった。最初のは歩器を使えていたけれど、そのはでつことも難しくなった。着替えを伝い、事を細かく刻み、夜に何度も体勢を変え、病院へ連れてったのは私だった。
幸は仕事が忙しいと言って、母親の部へ入ることさえなかった。
もちろん、会社員として働いていた幸の変さも分かっていた。だから私は度も「あなたもやって」と責めたことはなかった。
義母がくなったも、「これでし休める」とった自分を恥じたくらいだった。
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ところが回忌の。
酒が入った幸は、親戚たちので胸を張って言った。
「お袋の面倒は俺が最まで見ましたよ」
私は急須を持ったを瞬止めた。
それだけなら、まだよかった。
幸は続けた。
「うちの嫁はにいるだけの女でね。楽なもんですよ。俺が建てたで、ずっとのんびりしてるんですから」
座敷が瞬だけ静かになった。
誰かが笑えば、みんなも笑って終わる。そんな空気だった。
私は急須を傾けた。
「お茶、しますね」
それだけ言って笑った。
なぜ反論しなかったのか。
今考えても、はっきりした答えはない。
、同じことを繰り返すうちに、笑ってやり過ごすことが習慣になっていたのだとう。
結婚したばかりの頃は、私も言い返していた。
「私だってやっていることがあります」
「事だって仕事でしょう」
けれど幸は、そのたびに決まって言った。
「俺の料でってるんだろ」
子供がまれれば、「にいられるだけありがたいとえ」。
義母の介護が始まれば、「親の面倒を見るのは嫁として当たり」。
やがて私は何も言わなくなった。
言っても分かってもらえない。
そううほうが、ずっと楽だったからだ。
回忌の、親戚たちのでだけ笑わなかったがいた。
幸の弟の正さんだった。
をしている正さんは、湯のみをにしたまま私を見ていた。
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そして幸が別の親戚と話し始めた、正さんは私に向かってほんのしをげた。
謝るような、いたわるような、議な目だった。
私はその、そのをく考えなかった。
けれど、のでい返すと、胸の奥がくなった。
誰かでも見ていてくれた。
私が、夜に何度起きたか。
義母の体を支えたせいで腰を痛めたこと。
荒れした指で事を作り続けたこと。
そういうものを、なくともはっていた。
辺のさな駅へ着いたのは、昼をし過ぎた頃だった。
ホームへりると、潮の匂いがした。
子供の頃から嗅いできた匂いだった。
駅から分ほど歩き、緩い坂をると、古い瓦根のが見えてきた。
父が最までで暮らしていただ。
のに、柄な女性がっていた。
「みっちゃん?」
声を聞いただけで誰か分かった。
隣にむ恵さんだった。歳になる。
「恵さん」
「やっぱり、みっちゃんじゃないの。何ぶりかねえ」
恵さんは笑いながら私のを握った。
「庭の、たまに抜いておいたよ。お父さんには世話になったからね」
その言で、目の奥がくなった。
私はくをげた。
「ありがとうございます。本当に」
の鍵をけると、ひんやりした空気が流れてきた。
畳とと、し古い埃の匂い。
父の机も、母が使っていた裁縫箱も、昔のままだった。
私はつずつ窓をけていった。
から入ってきたが、いあいだ閉じ込められていた空気を押ししていく。
その景を見ながら、ふとった。
もしかすると、私自も同じだったのかもしれない。
閉め切った部のように、言いたいことも、したいことも、全部しまい込んできた。
窓をけなければいけないが来たのかもしれない。
そういながら、私は鞄の底から古い茶筒を取りした。