"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第11話
選ぶのはきている
女の姿は、数秒で消えた。恵は、見たと言った。
その夜、私は眠れず、母の遺を枕元に置いた。母がんでから、私は度もに見ていない。見えるものが見えなくなったのか、母が私のところへ来ないのか、分からなかった。
午をし過ぎたころ、部の隅で畳がきしんだ。目をけると、そこに母がっていた。病院で最に見たった姿ではなく、遺の写真と同じ代の姿だった。
「お母さん、恵さんに会えたよ」
母はうなずいた。私は、なぜもっとく話さなかったのかと聞きたかった。でも、母のから言い訳を聞けば、また母の気持ちを理解しようとしてしまう気がした。
「私は、あなたを許したわけじゃない」
そう伝えると、母はしそうな顔をした。それから、ほんのしだけをげ、消えていった。
朝、枕元の写真は伏せられていた。千恵子も見た。が同じものを見たのは、初めてだった。
それでも私は、女が本当に霊だったとは断言できない。は、同じ秘密をにすると、同じを見ることがあるのかもしれない。そううこともできる。けれど、誰も触れていない子が鳴った音は、今もに残っている。
恵は、ブローチのびらをつずつ並べた。
「母は、私だけを隠していたんじゃない。自分が引き受けられなかった子どもたちのことも、ずっと覚えていた」
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「それでも、あなたにしたことは消えない」
「そう。母が私をしていたことと、私を傷つけたことは、両方本当なの」
千恵子は、恵の隣に座った。を伸ばしかけて、途で止める。
「あなたに触れてもいい?」
恵はすぐに答えなかった。い沈黙のあと、のひらをに向けた。
千恵子は、そのをそっと握った。は泣かなかった。いが度に埋まるわけではない。けれど、会いたいと伝え、触れてもいいかと尋ねることはできた。
修司は、母のをどうするか話しおうと言った。私は、すぐに売ることには反対した。母が守ろうとしたものを、私たちがまた黙って片づけるのは違う気がしたからだ。
「を残すってこと?」
「そうじゃない。まず、写真やを理して、恵さんにも見てもらおう。母のことを、私たちだけの記憶にしない」
恵は「全部は見たくない」と言った。彼女が選んだ写真だけを残し、残りは本の希望を聞いてから理することにした。
母の遺品理は、ひとかかった。アルバムのには、私たち姉弟がらない母の顔がいくつもあった。若いころの千恵子と笑う母。父と赤ん坊の恵を抱く母。施設の子どもたちに折りを教える母。どの写真にも、母はしだけ緊張した顔をしていた。
何かを失うことを恐れていたのだろう。
恵は、母のテープをもう度聞いた。
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聞き終えると、テープを私に返した。
「これを持っていて。私は母を許したわけじゃない。でも、声を忘れたくないとった」
その、私は初めて恵を「お姉さん」と呼んだ。彼女は驚き、すぐには返事をしなかった。それから、さく笑った。
「今は、それでいいよ」
母のの最の夜、私はで仏壇に座った。遺のガラスには、私の顔だけが映っている。母の姿はなかった。
「お母さん。もう、秘密にしないよ」
返事はない。
ただ、仏壇の横に置いたのが、かりを受けてった。
女が消えたあと、千恵子は「今のは美代さんだったの」と尋ねた。恵は首を横に振った。「母の顔だったけれど、母だけじゃなかった気がする」。私たちはそれ以、正体を決めなかった。子のには、のびらが枚落ちていた。拾うと、たさはなく、窓から差す夕方のを返した。誰が置いたのかは分からない。けれど、私たちはそれを捨てずに、枚ののそばに置いた。
その、私たちはびらをさな箱にしまった。千恵子は箱の蓋に「美代、恵、澄子」といた。の関係をつの言葉で説することはできない。母は恵を育て、千恵子は恵を産み、澄子は母が助けられなかった子だった。けれど、とも母のにく結びついていた。箱は仏壇ではなく、恵のに置くことになった。
恵は、びらの箱をの奥の棚に置いた。
お客には見えない所だが、彼女が毎目にするところだという。「忘れないように、でも飾りてないように」と言った。千恵子はその言葉を聞き、静かにうなずいた。は、過を美しくえることより、今の距を切にし始めていた。
その箱のそばに、母の遺は置かないことにした。
箱の蓋を閉じると、のは見えなくなった。