"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第5話
姉からの留守番話
その夜、母の古い固定話に留守番話が件残っていると、修司から連絡があった。
留守番話を聞くに、私は記録のを確認した。受信刻は午分。話会社の細を取り寄せても、母の番号への着信記録はなかった。固定話はコンセントを抜かれていたはずで、修司も自分が源を入れた覚えはないという。
「したあと、計がリセットされたのかもしれない」
修司は現実な説を探した。私は、そうかもしれないと答えた。私の見たものがいつも本当だとは限らない。そうっておかないと、誰かのを自分の覚だけで決めてしまう。
それでも再ボタンを押す指が震えた。母がきていたころ、留守にはいつもい用件だけが残っていた。今度の声は、い沈黙のあとで、まるで何もためていた言葉を探すように始まった。母が入院したから話の源は抜いてあったはずだ。のため確認すると、確かに赤いランプが点滅していた。
再ボタンを押すと、最初に雑音が流れ、そのあと女の声が聞こえた。
「美代さん。私です。恵です。もう度だけ、あなたの声が聞きたい」
母が呼んでいた「千恵子さん」は、千恵子ではなかった。
声の主は、母の娘。私の姉だった。
留守番話のは、母がくなった翌の午分。
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話の源が入っていないだ。修司は「械の誤作だろ」と言った。私もそうおうとした。でも、再の最に、母の声がかすかになった。
「恵、遅くなってごめんね」
修司は音を聞いていないと言った。録音には女の声だけだったと。
私は、録音をスマートフォンに保し、千恵子に送った。返事はすぐに来た。
『恵は、今、川越にいます。会うかどうかはあなたが決めてください。彼女は、あなたに会うことを怖がっています。』
姉は、母の葬儀にも来ていたのだろうか。
千恵子から所を聞いて、私は翌、川越のさなを訪ねた。の奥で、代半の女性がを束ねていた。のびらのブローチはつけていない。けれど、写真で見た女と同じ目をしていた。
「恵さんですか」
女性はを止めた。
「誰から聞いたんですか」
「千恵子さんから。母の留守番話に、あなたの声が残っていました」
「私は話していません」
彼女はそう言ったあと、鋏を置いた。母の名を呼ぶと、目を伏せた。
「最に話したのは、入院するです。なかった。私は何度もかけたのに」
「留守には、あなたが母に話しかけていました」
「そんなはずない」
私はスマートフォンを取りしかけたが、恵は首を横に振った。
「聞きたくない。母が私に何を言ったか、今さら聞いても、何も戻らないから」
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「でも、母はあなたに会いたがっていた」
「会いたいなら、なぜ以も黙っていたんですか」
恵の声は静かだった。鳴らないぶん、言葉が胸に刺さる。
彼女は、母の妹夫婦に育てられた。を受けて育ったが、学にがる、親戚の集まりで「美代さんの子ではない」と聞いてしまった。育ての親は真実を話そうとしたが、母が止めた。恵は、実母にも育ての母にも、自分のを決められたとじた。
「私は、お母さんを許せないままここまで来た。葬儀にったのは、最に顔を見たかったからです。写真に写ったのは、たぶん偶然。あなたが見たものは、私じゃない」
恵は、葬儀のに会のにいたことを認めた。だが、写真の撮には帰っていた。母のにもったことはない。千恵子が通っていたという話にも当たりがなかった。
「お母さんのに、い湯のみがあったでしょう」
私のから、そんな言葉がた。
恵の表が変わった。
「どうしてそれを……」
「母の部にあったの」
「い湯のみは、私が子どものころ、あのに置いていったものです。育ての母が、私の誕に買ってくれた。でも、私は度だけ美代さんのにって、そのまま帰った」
恵は、、母のを訪ねたことがあったという。母は玄関で彼女を見て、何も言えずに泣いた。恵は、湯のみを置いて帰った。
母はそのも、ずっと使わずにしまっていたらしい。
「私が帰ったあと、あのは何か言いましたか」
「母は、あなたを待っていた」
「それだけ?」
私は答えられなかった。
恵は束をで包み、私に渡した。母の葬儀に供えるいリンドウだった。
「これを持っていってください。私は、もう度だけあのにきます。でも、あなたの姉になるつもりはありません」
をると、携帯話に千恵子から着信が入った。
「紀子さん、今どこですか。恵が、あなたのところへ向かっているはずなのに、で見失ったと言って……」
私は振り返った。
のガラスには、恵の姿が映っていた。彼女はのにいるはずなのに、ガラスのでは、私のすぐろにっていた。
そのには、ののブローチが握られていた。
その夜、恵からいメッセージが届いた。「あなたは母に似ている。話を急ぐところも、誰かを助けようとして勝に決めるところも」。私は読み返し、返事をいては消した。結局、「言ってくれてありがとう」とだけ送った。しばらくして、恵から「、で話そう」と返ってきた。彼女は私をざけたいのではなく、私自にも選ばせようとしているのかもしれなかった。
私は帰宅してから、恵に「母はあなたを待っていた」と伝えたことを悔した。待っていたことと、迎えにったことは違う。
母の気持ちを伝えるほど、恵に母を許すよう迫ってしまうかもしれない。話をかけて謝ろうとしたが、やめた。彼女には考えるが必だった。私は母の代わりに話し続けるのではなく、恵が話し始めるのを待つことにした。
その晩、私は自分の子ども代の記憶をい返した。母は私と修司に同じように接していたとっていたが、恵のがにあったなら、母の優しさには言えないしみが混ざっていたのかもしれない。私は、記憶が正確でないことを初めて恐れた。
恵から返事が来るまで、私はスマートフォンを伏せて待った。
私は返事を待つあいだ、母のを読み直した。