"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第2話
仏壇の引きし
翌朝、私は母の団へ向かった。葬儀のあと、のを片づける必があったからだ。修司は仕事があると言い、由美は「必な物だけ分けておいて」と言った。結局、母の暮らしを緒に見てきたのは、私だけだった。
玄関をけると、煮物と古い畳の匂いがした。母が倒れたのまま、台所には湯のみがつ置かれている。つは母の桜模様、もうつはい無の湯のみだった。
母は暮らしだった。誰とお茶をんでいたのだろう。
仏壇のに座ると、線てのが自然に崩れていた。仏壇の側にあるさな引きしは、いつも鍵がかかっていた。鍵は母の裁縫箱の底からてきた。には、通帳でも権利でもなく、古い写真と封筒が数枚入っていた。
写真は、昭代のので撮られたものだった。若い母が、見らぬ女性と並んでいる。女性は、葬儀の写真に写った女と同じ顔をしていた。齢からすると、母よりしに見える。は似ていないが、肩が触れるほどくにっていた。
写真の裏には、鉛で「千恵子と美代、昭」といてある。
美代は母の名だ。千恵子は、やはり実した。
封筒のつに「千恵子へ」とかれていた。には便箋が枚だけ入っている。母の字で、付は以。
『あの子のことは、誰にも言えません。
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私が守ると約束したのに、あなたに背負わせてしまった。もし今度、あの子が戻ってきたら、私をんでいい。けれど、あの子には何も言わないでください。』
あの子とは誰だろう。
私は便箋を持つに力を入れた。の向こうから、たいに触れたような覚がってくる。母の声がなった。
「お姉ちゃん、お願い。あの子を連れていかないで」
母の声ではなかった。もっと若い女性の声だった。
私は引きしの奥を探った。封筒のに、病院の領収が枚あった。昭。母の旧姓と、産婦科の名が印字されている。裏面に、母の字でくかれていた。
『千恵子、女の子。父親にはらせず。』
その瞬、玄関ので音が止まった。
ドアをけると、誰もいない。廊の端に、のびらが枚落ちていた。拾いげた指先がひどくたくなる。
私は急いで娘に話した。
「葬儀の写真、あの女の顔をもう度拡してくれる?」
「もう見たよ。おばあちゃんの写真に写ってたでしょう?」
「違うの。あの、千恵子さんかもしれない」
話の向こうで、理が息を呑んだ。
「お母さん、千恵子って誰?」
私にも分からなかった。ただ、母が誰かの子どもを守ろうとしていたことだけは、に残っていた。
引きしの底には、もう枚、写真があった。赤ん坊を抱く母と、その横で泣いている若い女。
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写真の裏には、母の字でこうあった。
『この子は、美代の子として育てる。千恵子の子だということは、私たちだけの秘密。』
私は写真を落としそうになった。
母が育てたのは、誰の子だったのか。
そして、千恵子は今どこにいるのか。
私は団の管理で古い来訪記録が残っていないか尋ねた。佐藤さんは、帳を何冊もめくり、千恵子という名がかれたページを見つけた。記録には、母が病院へ運ばれる数に「面会」とだけ記されていた。母はその、誰かに会っていたのだ。名の横には、佐藤さんの字で「いを持参」とある。
母の台所を片づけていると、蔵庫に貼られた買い物メモが見つかった。牛乳、豆腐、茶、い。茶は母がまないものだった。誰かのために買ったのだろう。私はメモを捨てず、封筒に入れた。付は母が入院する。千恵子か、恵か、あるいは別の誰かが訪ねてくるのを、母は待っていたのだとう。
引きしの奥には、母の字でかれた買い物のりきもあった。「千恵子さんの好きな茶」「恵に似う青い」。母は、相が来なくても、いつか渡すつもりで用していたのだろう。めた茶の缶をに取ると、蓋の内側に「また会えますように」とかれていた。
仏壇のには、細い指で触れたような跡が本残っていた。
母が最に線をあげたのものだろうか。
引きしの鍵は、今も裁縫箱の底に戻してある。