"母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密" 第1話
遺の隣につ女
※体験談のような語りで描く創作怪談です。
には、見えないものが見えることがある。
そう言うと、たいていのは半分笑って、半分だけ距を置く。私も自分のことを霊能者だとったことはない。ただ、誰もいない所にを見たり、くなったが使っていた物に触れたとき、そのの最の言葉が聞こえたりする。子どもの頃から、そんなことが々あった。
見えたものをに話しても、信じてもらえない。だから私は、いあいだ黙っていた。
最初に見たのは、学のだった。祖母の葬儀の帰り、誰もいない縁側に祖母が座っていた。祖母は私に「お父さんに、薬をんだか聞いて」と言った。に戻ると、父は薬をみ忘れていた。私はそのことを母に話したが、母は「子どもはの会話を聞いて覚えているのよ」と笑った。それから何も、私は見たことを胸の奥にしまってきた。
くなったがてくるとき、決まって何かを伝えようとしている。そう考えるようになったのは、代のころだ。母の友がくなったあと、玄関の鏡にそのが映った。翌、母に「押し入れの奥に返していない指輪がある」と話したら、母は真っ青になった。私はそのとき、見えたものを伝えることがを助けるのか、傷つけるのか分からなくなった。
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母の葬儀の、私は歳になっていた。
母は歳。埼玉県の古い団で暮らしを続けていたが、転んで入院してからは急にり、最の週を病院で過ごした。私と弟の修司は交代で通った。母は識がはっきりしているもあれば、誰かの名を呼び続けるもあった。
その名は、私たち姉弟のどちらでもなかった。
「千恵子さん、来てくれたのね」
母は何度もそう言った。
千恵子という親戚はいない。なくとも、私たちがる範囲には。
弟に聞くと、彼は「昔の所のじゃないか」と言った。護師さんは、昔の記憶が混ざることはよくあると説した。私もそううことにした。
葬儀の控には、い菊と、母が若いころの写真を使った遺が飾られていた。写真の母は、歳くらいだろうか。し嫌そうな顔で、カメラから目を逸らしている。母らしいとった。
その遺のガラスに、女が映っていた。
黒いを着た、代くらいの女。母の写真のすぐ隣にち、こちらを見ている。
私は振り返った。そこには壁と、畳んだ子しかなかった。
もう度ガラスを見ると、女は消えていた。
母の棺のに、親族が集まった。弟の修司と妻の由美、私の娘の理、母の妹の夫だったという老。母は兄弟がいないと聞かされてきたから、その老の説は妙だった。
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だが彼は「昔、所で世話になった」とだけ言い、名刺もさず、焼を済ませると帰ってしまった。
そのとき、棺の向こう側から声がした。
「数えないで。あの子は、まだきてる」
母の声だった。
私は棺を見た。蓋は閉じられている。声は、棺のから聞こえたようにも、背から聞こえたようにもえた。
「お母さん?」
私の声に、修司が眉を寄せた。
「どうしたんだよ」
「今、誰か……」
「誰もいないよ」
その夜、葬儀から戻ると、娘の理がスマートフォンを差しした。
理は歳で、私の話をから否定しない数ないだった。けれど、彼女も幽霊を信じているわけではない。「お母さんが疲れていたから、そう見えたのかもしれない」と、いつも現実な理由を探してくれる。母がくなってから、彼女は私のそばをれず、葬儀の配も率先して引き受けてくれた。
「写真を撮ったとき、ろに誰かいた?」
「いなかった。親族はもう控に移していたし、係のも見てない」
「じゃあ、このは……」
「おばあちゃんが呼んでいたかもしれないね」
理はそう言ってから、自分の言葉に驚いたようにを閉じた。親族で撮った集写真だった。棺のに私たちが並び、ろにはいがある。遺の母は、写真のでもしだけ目を逸らしていた。
そして、母の隣に、黒いの女が写っていた。
誰もその所にはっていなかった。撮した理も、シャッターを押したあと確認したときは気づかなかったという。
女は、私のほうを見ていた。
私は写真を拡した。女の胸元には、古びたのブローチが留められている。びらが枚だけの、さなの。
それを見た瞬、母の病で聞いた声が、の奥に戻ってきた。
「千恵子さん、来てくれたのね」
母が呼んでいたのは、誰だったのだろう。
そして、なぜ葬儀の写真にだけ現れた女は、私に何かを伝えようとしているのだろう。
葬儀のあと、理は「お母さんは昔から、くなったが見えると言っていたの」と尋ねた。私は、見えるというより、々そこにいるようにじるのだと答えた。理は信じるとも信じないとも言わず、ただ「今回はで抱えないで」と言った。私はうなずいた。母の秘密を追うことは、私自の見てきたものと向きうことでもあった。
母の遺ので、私は線をあげた。煙はまっすぐり、井くでく広がった。子どものころ、母は「はんだあと、煙みたいにどこかへくのよ」と言ったことがある。私はその話をずっと覚えていた。今、遺の母に何を聞いても、答えは返ってこない。それでも、母がきていたときに言えなかったことを、私はつずつ確かめていくしかなかった。
葬儀の係のに写真の撮所を確認すると、女が写った位置は壁際で、そこにがてるだけの幅はなかったという。壁にはのスタンドが置かれていた。係のは、写真を見ても誰かが写っているとは気づかなかった。私と理だけが、その女の顔を見つけたのだ。
遺の母は、最まで私を見ていなかった。写真の向こうに、誰かを探しているようだった。
あのから、私は写真を度も削除できずにいる。