"銀座の384万円" 第8話
スピーカー越しの断罪
「もしもし」
私のく静かな声が、スピーカーを通じて通話の向こうへ届いた瞬だった。
『美央おおおおおっ! あんた、今どこにいるのよ! く、く戻ってきなさいよ!』
鼓膜を突き破らんばかりの、の切り声が炸裂した。先ほどまで座の級でセレブ気取りをしていた老婆の面は微もなく、そこにあるのはの淵に追い詰められた獣の絶叫だった。
『が……が警察を呼んだのよ! ドアがかないの! 私たち、閉じ込められちゃったのよ!』
背景からは、達也の荒い呼吸音と、義弟の妻の啜り泣きが混ざりって々しく響いてくる。
「ええ、っています。私が堂島総支配に、そのように指示しましたから」
私のえ切った返答に、受話器の向こうの狂乱が瞬にして静止した。
『……は? あんたが……指示した……?』
「母さん、代われ! 俺が話す!」
話を乱暴に奪い取る音がして、今度は夫・達也の裏返った声がスピーカーからびしてきた。
『おい美央! ふざけた冗談はやめろ! お、個をるに「分かりました」って言っただろ! あれはちゃんとレジで全額払うっていうだったはずだ! なんで払ってないんだよ!』
追い詰められたの、見苦しい責任転嫁。
「達也さん。あなたは私の言葉の真を、根本から履き違えているようですね」
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私はデスクの背もたれにく寄りかかり、氷のような声で事実を告げた。
「私が『分かりました』と申しげたのは、あなた方の底なしの欲と、私に対する悪のすべてを完全に理解した、というです。そして——あなた方のような卑しい寄虫には、円の施しも与えないという決別の図でした」
『な……っ!?』
「百万千円。ご自分たちの胃袋へ流し込んだ贅沢の代です。ご自分の財布から、全額きっちりとお支払いなさい。それがとして、社会としての当然の責任でしょう」
『払えるわけないだろ! カードが全部止まってんだよ! おい、頼むから今すぐ戻ってきてくれ! 俺は商社の課なんだぞ! 無銭で警察に捕まったら、世どころかクビになっちまうんだよ!』
達也はプライドも何もかも投げ捨て、を啜りながら話に縋り付いてきた。
「ったことではありません。の丈にわない贅沢に溺れ、ので虚栄を満たそうとした報いです」
『美央さん! お願い、許して頂戴!』
今度はが話に割り込み、に額を擦り付けるような声で泣き叫んだ。
『私が悪かったわ! あんたを虐めたのも、料理をべさせなかったのも全部謝るから! エルメスのバッグももうらない! だから警察だけは止めて! 刑務所になんてきたくないのよぉ!』
「謝罪の言葉をにするのが、し遅すぎましたね」
私の声には、滴の揺らぎもなかった。
その、スピーカーの奥から、く響いていたサイレンの音が急速にづき、グラン・レガリアの正面玄関でいくつものいブレーキ音へと変わった。
ウー、ウー、ウー——!
赤灯のが、ガラス扉越しにエントランスのを赤く染めげていく。
『ひいっ! 来た……警察が来ちゃったわあああっ!』
の絶望な鳴が、サイレンの轟音となって響き渡った。
「さようなら、田達也さん。……そして、元お義母様」
私は徹にそう言い残すと、通話を切断することなく、デスクに埋め込まれた型セキュリティモニターの映像へと線を移した。
本物の獄の幕が、今まさにがろうとしていた。