"銀座の384万円" 第4話
百万千円の断絶
元にいた状態で転がっている黒革のバインダー。その隙から覗く純のレシートに、私はゆっくりと線を落とした。
印字されていた計額は、暴力なまでの数字だった。
『計 3,842,000円(税・サービス料込)』
百万千円。
般なサラリーマンの収に匹敵する額が、わずか半ほどので計されていた。
レシートの細には、万円を超える最峰の特別フルコースが分。それに加え、ロシア産極ベルーガキャビアの追加トッピング、季節れのフレッシュトリュフの皿。そして、ロマネ・コンティのヴィンテージが本分、数百万円の数字となって鎮座していた。
堅商社の課である達也の取りが万円であることを考えれば、この額がいかに狂気じみているかはを見るよりらかだった。
彼らは、最初から自分で支払う気などミリも持ちわせていなかったのだ。「から来る嫁にすべて支払わせればいい」「どうせ断れない」とを括り、メニューので最も数字のきいものだけを、湯のように注文して胃袋へ流し込んだのだ。
普通の専業主婦であれば、この伝票を見た瞬に顔面を蒼にし、過呼吸を起こしてそのに泣き崩れるか、義族に座して減額を懇願していただろう。
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彼らはまさに、その無様な姿を見てあざ笑い、自分たちの優位性を確認したかったのだ。
義弟の妻が、残った赤ワインのグラスを揺らしながら、悪く元を歪めた。
「お義姉さん、まさか払えないなんて言わないわよね? カードの限度額がりないなら、座して旦さんにをげたらどうですかぁ?」
「そうよ、みっともない真似はしないでちょうだいね!」義母が追撃するように嘲笑を浴びせる。
しかし、私の拍数は、拍たりとも乱れることはなかった。
百万円という法な数字を目にしても、私の呼吸は静まり返った面のように穏やかだった。むしろ、その常軌を逸した額こそが、私の胸の奥で燻っていた最のけのを、完全に、そして永に消しってくれたのだ。
私は両腕に抱えたオレンジの袋を、胸元でしっかりと抱き直した。
この万円のバッグは、私が彼らに差しそうとしていた最の真だった。族として認めいたい、互いを慈しみいたいという、私のの祈りの結晶だった。
だが、の真をで踏みにじり、底なしの欲を満たすことしか考えない悪魔たちに、この真を受け取る資格など爪の先ほどもしない。
「おい、美央! 母さんの言葉が聞こえないのか!」達也が眉を吊りげ、威圧に鳴りつけた。
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「くバッグを置いて、伝票を持ってレジへけよ! 俺たちはもう帰る準備配ができてんだからさ!」
私はゆっくりと顔をげた。
そこには、彼らが期待していたような絶望も、恐怖も、涙のもなかった。
のすべてを削ぎ落とした、絶対零度の静寂だけを湛えた私の瞳が、テーブルを囲むの顔を、徹な無物として順番に射抜いていく。
「な、何よ……その目は……」
私のあまりにも異質な線に気圧されたのか、義母の声がわずかに震え、言葉尻が泳いだ。
私は静かに、度だけく瞬きをした。
そして、澄み切った、しかし部の空気を凍りつかせるほどくたい声で、たった言だけ告げた。
「分かりました」
それは、願でもなければ、承諾でもなかった。
あなたたちの浅ましさと醜悪な本質を、完全に理解した。そして、あなたたちという寄虫を私の世界から永久に排除し、自業自得の鉄槌をす——その処刑宣告のスイッチを、私自ので静かに押し込んだ図だった。