"銀座の384万円" 第2話
い散らかされた残骸と転がる空瓶
「いらっしゃいませ。お待ち申しげておりました」
エントランスで直の姿勢をとっていたレセプションスタッフが、私の姿を認めるなり、最敬礼にい角度で々とをげた。私が名乗るまでもなく、その所作には般の客に対するそれとは線を画す、研ぎ澄まされた敬と極度の緊張が滲みていた。このレストランが真藤グループの完全子会社であり、全スタッフが私の顔と本質を熟しているからこその対応だった。
「ご案内いたします」
音を完全に吸い込む毛のいの絨毯のを、案内係に従って奥へとむ。舗の最奥、最も格式のい特別個「ロイヤルスイート」ので、スタッフがち止まり、なウォールナットの扉にをかけた。
約束の午。仕事のを縫って都内を奔し、ようやくに入れた万円のバッグを抱えた私は、しでもやかな誕会にしようと、角をげて微笑みの表を作った。
トントン、と控えめなノックの、スタッフが静かに扉をける。
その瞬、私の腔を突いたのは、最級フレンチの洗練されたりなどではなく、濃な脂の臭気と、噎せ返るようなアルコールの刺激臭だった。
そして、かれた扉の向こうに広がっていた景を目にした、私の全の血液が音をてて逆流した。
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「あっはっは! 兄さん、これ本当に美いよ! こんないワイン、俺の料じゃめないぜ!」
「だろ? 母さんの歳の誕なんだから、これくらい豪にいかないとな!」
円卓を囲んでいたのは、義母の、夫の達也、そして達也の弟である義弟夫婦のだった。彼らはすでに顔を真っ赤に気させ、だらしなくネクタイを緩め、デザートの皿をつつきながら声で笑いっていた。
テーブルのは、まるで激しい暴が通り過ぎたのように荒れ果てていた。
の皿のには、最級ベルーガキャビアの空き瓶が転がり、削りたてのトリュフが散らばった濃なソースの残りかすが、無残に乾き始めている。半分以が千切られて放置された特注のバゲット、骨だけになった仔羊のロースト。
そして何よりも私の目を射抜いたのは、テーブルの央に無造作に転がされていた、い緑の本のワインボトルだった。
フランス・ブルゴーニュがんだ最峰の特級畑、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ。本で百万円を優に超える至のヴィンテージワインが、本とも最の滴までみ干され、無様な空き瓶となって転がっていたのだ。
主役であるはずの私が座るべき座の席には、料理の皿どころか、を入れたグラスつすら用されていなかった。
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純のリネンのナプキンだけが、度も広げられることなく、ポツンと取り残されている。
「あ、美央。やっと来たのかよ」
入りにち尽くす私に最初に気づいたのは、夫の達也だった。彼はグラスに残った最の琥珀の液体を喉へ流し込み、脂で汚れた布ナプキンで元を拭いながら、先でせせら笑った。
「遅いからさ、母さんと先に始めちゃったよ。もう全部べ終わったから、おの分の料理はないぞ」
「……遅い?」
私の喉から、掠れた声が漏れた。
首の計に線を落とす。針は午分を指していた。分の狂いもなく、私は指定された刻に到着していたのだ。それなのに、彼らはすでにデザートまで平らげ、酒盛りを終えようとしている。
つまり、彼らは私に伝えた集のなくとも半以からこの部に陣取り、私を完全に排除した状態で、自分たちだけでこの贅を尽くした宴をい散らかしていたのだ。
「兄さん、この肉も柔らかくて最だったねえ」義弟がゲップを噛み殺しながら笑う。「お義母さんの誕にかこつけて、こんな贅沢ができるなんて最だよ」
「本当ねえ。お義母さん、肌がツヤツヤになって若返ったみたい!」義弟の妻も、元にフォンダンショコラのクリームをつけたまま品にはしゃいでいる。
彼らの界には、入りの扉ので凍りついている私の姿など、まるで最初からしないかのように映っていなかった。
万円のバッグを胸に抱き、しでも族として受け入れられたいと願っていた私の純粋なが、テーブルのの残飯のとともに踏みにじられていく。
指先から急速に温もりが失われ、全の毛穴が気で塞がれていくのをじていた。