みかん小説
本棚

"山奥の身代わり花嫁" 第19話

嫁の席

「美緒、てきなさい」。のから父の声が聞こえた。私は無垢の袖をえ、静さんに「私が話します」と伝えた。武さんは隣へ来たが、先にをかなかった。私が何を言いたいか、自分で決めるのを待ってくれているのだと分かった。

父と母、姉の耶が玄関先にっていた。とも祝いの言葉はなく、母は敷のきさを見回し、姉は私の無垢を見て唇を噛んだ。「こんな派なだなんて聞いていないわ」。母の第声はそれだった。「だったら耶が嫁ぐはずだったでしょう。妹が姉の席を取るなんて」。

私は静かに答えた。「お母さん、ここへ来たのことを覚えている? 私は結婚するために送りされたんじゃない。に戻るなと言われて、古い鞄つで追いされたんだよ」。母は「そんな昔のことを」と顔をしかめた。私にとっては、まだも経っていない来事だった。

父は武さんへづき、急に丁寧な調になった。「あのときは混乱しておりまして。女の耶は都会で経験を積んだ娘です。今からでも、考え直していただけませんか」。私は父の横顔を見た。見いの、私を「見た目はだが働き者」と紹介した同じが、今度は姉のほうがふさわしいと売り込んでいる。

「お父さん、私に言うことはないの」。私が尋ねると、父は「親に恥をかかせたことを謝れ」

広告

と返した。私はく息を吸った。「百万円を私の名で受け取って、姉のために使ったこと。私の署名を勝にいたこと。私に縁談が来ていたのを隠したこと。そのどれも、まだ謝ってもらっていないよ」。

姉がへた。「そもそも私の見いだったでしょう。美緒が代わりにったんだから、今の活は私が譲ってあげたようなものじゃない」。私は姉の目を見た。「耶、お父さんから最初に話が来たのは私だと聞いたよね」。姉は瞬黙ったが、「そんなの、からどうとでも言える」と言い返した。

騒ぎを聞いて、宮坂さんが玄関へてきた。さんもしれた所にっていた。宮坂さんは父に向かい、「私が最初に預かった依頼には、美緒さんのお名がありました」と告げた。「ご族の説を信じて確認を怠った私にも責任があります。しかし、最初の依頼をなかったことにはできません」。

父は「今さら古いの話をするな」と声を荒らげた。そこで武さんの代理が、封筒を持って現れた。「銭の件は、すでに別の続きで理です。今は式を妨げないよう、こちらでお話しください」。父は封筒を見てもかず、「親を締めして結婚するつもりか」と私に詰め寄った。

私は歩もがらなかった。「私のを聞かずに縁談を決めたとき、お父さんは親として私を守ってくれなかった。

広告

今も、私がどうしたいかは度も聞かないんだね」。父の顔が歪んだ。「育ててやった恩を忘れたのか」。私は頷かなかった。「育ててもらったことは忘れない。でも、その恩を理由に私のを売っていいことにはならないよ」。

母が「親に向かって何ての利き方」と叫んだ。私は昔ならすぐに謝っただろう。けれど今は、さんがろにいて、静さんが扉のそばにち、武さんが隣で私の返事を待っている。「私は、の事を作って、働いたおを入れてきた。それでも必なのは姉だけだと言われた。あの、に帰るなと言われたことも覚えている」。

姉は悔しそうに私を見た。「でも、武さんが本当はお持ちだって分かっていたら、私だって逃げなかった」。その言葉に、周囲が静まり返った。武さんは初めて姉へ向き直った。「私は、私の仕事や財産ではなく、緒にきる相として美緒さんを選びました。あなたと婚約したことは度もありません」。

「私が選ばれたんじゃない」。私は武さんの言葉に続けた。「私も、ここで働くことを選んで、武さんと族になることを選んだの。誰かが譲った席に座ったんじゃない。私の席は、私が決めたんだよ」。姉はをいたまま何も言えなかった。私はその顔を見ても、勝ったとはわなかった。

ただ、ようやく自分の言葉が届く所にてた気がした。

代理は父へ、式の妨害を続ければ必な対応を取ること、銭の問題は予定どおり話しうことを改めて伝えた。父は類の封筒を受け取り、母の腕を引いた。母は最に「本当に親を捨てるのね」と言った。私は首を横に振った。「私をからしたのは、お母さんたちだよ。私は、帰っていいと言ってくれるへ帰るだけ」。

がをるまで、私は目を逸らさなかった。閉まった扉の向こうからの音がざかり、庭にの音だけが残った。私は膝が震えていることに気づき、武さんのを握った。「怖かったです」と言うと、彼は「そうですね」と答えた。がらなくてもいい相がいることに、私はし笑った。

広へ戻ると、さんが私の背を軽く叩いた。「さあ、祝い膳がめるよ。あんたの料理はめてもおいしいけど、嫁まで待たせちゃいけない」。皆が笑い、井さんが温かい汁物を運んできた。私は武さんと並んで席に座った。そこは姉の代わりでも、事をするの控えの席でもない。私の名で用された、私の席だった。

式の終わり、武さんは私に「お帰りなさい」と言った。私は彼の顔を見て、「ただいま」と答えた。ので初めて奥様と呼ばれたには、その言葉が怖かった。

けれど今は、誰かに決められた呼び名ではなく、で選んだ約束として受け取ることができた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: