"山奥の身代わり花嫁" 第4話
の内側で待っていた名
「違います。私は奥様ではありません」。声が裏返り、私は慌ててをげた。「姉の代わりに連れてこられただけです。ご迷惑でしたら、すぐにていきます」。並んでいたたちのに戸惑いが広がり、髪の女性ははっとした顔で武さんを見た。
「静さん、まだ何も決まっていません」。武さんは私のにつのではなく、隣にって言った。「美緒さんはお客様です。皆さんにも、そう伝えたはずです」。静さんはすぐにもう度をげた。「申し訳ありません。いことお迎えしたいとっていた方なので、先ってしまいました」。その言い方には、初対面のに向けるものとは違う温かさがあった。
私は静さんに案内され、広いを通って堂へ入った。壁にはの古い写真や、所で作った子が並んでいる。豪華な調度品より目についたのは、濡れた靴を置く棚、救急箱、誰でも使える器だった。夕の支度をしていたたちが私に席を勧めたが、私は伝いを申してしまい、静さんに優しく止められた。
「今は座っていてください。ここへ来たには、まず温かいものをべてもらうのが決まりです」。私のに、菜の炊き込みご飯と川魚の塩焼きが置かれた。湯気を見つめていると、さんの言葉が浮かんだ。
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べるが蓋をけるまでが料理。今度は私が、誰かに作ってもらった事を受け取る側にいる。
、武さんは私をさな応接へ招いた。机のには、の豪のときに配られた弁当の写真が置かれていた。蓋には私の字で「無事に帰ってください」といたが貼ってある。作業員のが記に撮ったものだという。私は、あのに誰がどんな顔でべてくれたのか、度も考えたことがなかった。
「が寸断されて、復旧班は夜けから働いていました。温かい事を運べず、みんな疲れ切っていたんです」。武さんは写真の端を指で押さえた。「あの弁当はめていてもべやすかった。野菜の切り方まで夫してあって、きの言がついていた。べたたちが、誰が作ったんだろうと話していました」。
彼はそれから何度かを訪ね、さんから私が献を考えたと聞いたという。曜に通うようになったのは、峰の製品を港の取引先へ運ぶとなったからだった。「べ物を切にする仕事ぶりを見て、もっと話してみたいといました。でもでは忙しそうでしたし、仕事に個な話を持ちかけるのは違うとったんです」。
私は何と言えばいいか分からなかった。では、料理は誰かが作って当然のものだった。
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焦がせば叱られ、うまくできても箸がむだけ。自分がいたさなをも覚えていたがいるという事実が、まだ信じられなかった。
「宮坂さんには、ひだまり弁当で働く野美緒さんと、お見いの会をいただけないかと頼みました」。武さんは枚の類をした。そこには確かに私の名があった。私は息をのんだ。父が私を姉の代わりに連れてきたのではない。最初から頼まれていたのは、私だったのだ。
ところが返ってきた承諾には、姉の耶の名が記されていたという。宮坂さんは父の説を信じ、「妹はもう結婚する予定がある」と聞かされていた。武さんは誤解を解こうと何度も連絡したが、父は女との縁談で違いないと言い張った。最に本たちと会って確認するつもりで、今の席にたのだった。
「私の名を、お父さんが隠したんですか」。私が尋ねると、武さんは「今ある類だけでは、誰がどこまでっていたか断定できません」と答えた。言い切らないことが、かえって誠実にえた。彼は封筒からもう枚のを取りした。そこには、父が送った承諾のにく残った、消しきれない文字があった。
をに透かすと、姉の名のから「美緒」の文字が浮かんだ。私はわず目を閉じた。父は違えたのではない。
私の名を見たうえで、姉の名を貼りつけたのだ。