みかん小説
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"山奥の身代わり花嫁" 第1話

置きの朝

「私には私のがあります。奥のきこりと結婚するつもりはありません。京へきます。探さないで」

見いの、姉の耶はそれだけき残して姿を消した。便箋の端には、母が今朝買ってきた真珠の髪飾りが置かれていた。母は何度も携帯話を鳴らし、父はを握り潰したまま玄関と計を交互に見ていた。私は台所で分の昼を詰めていたが、卵焼きのを止めることさえ忘れていた。

「どうするのよ。先方はもう会へ向かっているんでしょう」。母の声が裏返った。父は「支度は使ってしまったんだぞ」とく言い、私に聞かれたと気づくとをつぐんだ。私はそこで初めて、姉の縁談に百万円というがいていたことをった。

姉は歳で、私よりつだった。華やかなが似い、らないともすぐ打ち解ける。父は昔から姉を「うちの宝」と呼び、母は姉が仕事を辞めるたびに「耶にふさわしい職じゃなかった」と慰めた。歳の私は歳から町の弁当で働き、に入れる活費も、洗濯も、夕の支度も、いつのにか私の役目になっていた。

「美緒」。父が名を呼んだとき、私は悪い予がした。父は散らかった座敷を見渡してから、姉の代わりに見いへけと言った。相は嫁が欲しいのだから、働ける女なら誰でも同じだという。

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母も「向こうは暮らしなんだから、あんたのほうが事には向いている」と頷いた。

「相の方は、お姉ちゃんと会う約束をしているんでしょう。黙って入れ替わるのは失礼だよ」。そう答えた途端、父のが私の頬にんだ。痛みより、母が止めもしなかったことに息が詰まった。父は「誰のおかげでここまで育った」と言い、私が握っていた菜箸を流しへ投げ込んだ。

母は姉のために用した着物を畳み直し、私には襟の擦れた紺のワンピースを渡した。「あんたならこれで分。化粧なんかしなくていいから」。父は押し入れから褪せた旅鞄をし、私のを勝に詰めた。以使った鞄の取っは、片側だけ糸がほつれていた。

「話がまとまったら、そのまま向こうに置いてもらえ。耶が帰ってきたとき、におがいると面倒だ」。父は私の顔を見ずに言った。私の部は階の物置を片づけたさなで、窓の鍵はから壊れたままだった。その部でさえ、もう私の所ではないらしかった。

私は鞄に、弁当の主・さんからもらったさな帳を入れた。季節ごとの仕入れ値や、常連客の好みをき留めた仕事用の帳だった。に話をすると、さんは私の声だけで何かを察したらしく、「の仕込みは気にしなくていい。

帰る所がなければの階へおいで」と言ってくれた。私は泣きそうになったが、父が玄関から鳴る声に急かされ、礼だけ告げて話を切った。

町の旅館の座敷へ着くと、父のりいだという元町と、濃紺のスーツを着た背のい男性が待っていた。男性は私を見て、ほんのわずかに目を見いた。私はその顔をっていた。毎週曜、ひだまり弁当で鮭弁当とだし巻き卵を買っていた、作業着姿の客だった。

父は私をへ押しした。「姉は急病でして。妹の美緒です。見た目はですが、働き者ですから」。男性の線が、父から私へ移った。彼は静かな声で「野美緒さんですね」と確かめ、それから私が度も族に聞かれたことのない質問をした。

「あなたは、ご自分のでここへ来ましたか」

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