"愛人が妊娠、離婚を迫る夫が私の退職に大慌て" 第6話
の領収と千百万円の
「……え?」 徹の抜けな声が、静まり返ったリビングに響いた。 男は隣に座る美咲と、私の顔を交互に見比べ、引き攣った笑いを浮かべた。
「お、おいおい、ももか……何を馬鹿な冗談を言ってるんだ? 美咲が横領? そんなわけないだろ。美咲は経理課の真面目な社員だぞ」
「冗談に見えるかしら?」 私は元に用していたクリアファイルをき、枚の類をテーブルの央に滑らせた。 それは、社監査によって抽された、経理課の審な伝票の覧表だった。
「美咲さん。過にわたり、あなたが処理した営業接待交際費、張旅費、そして備品購入費。の領収に勝に額をき込み、架空の企業への支払い名目で、あなたの個座へ送されていたわね。その総額、千百万円よ」
「な……っ!」 美咲の顔が、から気へと急速に変していった。 さっきまで勝ち誇っていた嬌のある笑顔は完全に崩壊し、顎をガタガタと震わせている。
「な、何言ってるんですかぁ……! そんなの、言いがかりです! 証拠でもあるんですか!?」 擦った声で抗議する美咲に対し、私は容赦なく枚目の類を叩きつけた。 そこには、美咲の座の取引履歴と、跡鑑定の結果が克に記されていた。
「証拠なら、ほどあるわ。あなたが玉に取っていた経理部――先週、専務と社弁護士に別へ呼ばれて、泣きながらすべてを自したわよ。
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『美咲さんに脅されて、承認印を押し続けた』ってね。部の自の録音データ、今ここで聞く?」
私がスマートフォンを取りそうとしたその瞬だった。 「うわああああんっ!!」 美咲は突如として両で顔を覆い、子供のように声で泣き叫び始めた。
「ごめんなさいぃぃっ! でも、私だってやりたくてやったんじゃないんですぅぅ!」 ポロポロと粒の涙を流しながら、美咲は徹の腕にしがみついた。
「実の父の会社が倒産して……! 母はショックで倒れて末期癌で入院して……! 弟たちは反発して暴力団から借を作って方になって……! 私のじゃどうにもならなくて、つい魔が差してやってしまったんですぅ! 徹さんに迷惑をかけたくなくて、で抱え込んで……ううっ、ひっく……!」
目薬でも仕込んでいたのかとうほどの、見事な泣き落としだった。 普通のの男なら、あまりの陳腐なメロドラマ仕ての嘘に失笑するところだろう。 ――しかし、が夫・武田徹は、普通のの男ではなかった。
「そ、そうだったのか……! 美咲、そんな辛いいをしていたのか……!」 徹は目を潤ませ、美咲の華奢な肩をぎゅっと抱きしめたのだ。
「すまなかったな、俺が気づいてやれなくて! 俺に相談してくれれば、なんていくらでも都してやったのに!」 「徹さぁん……! おは借の返済に全部使っちゃったから、もう円も残ってないんですぅ……!」
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「いいよ、いいよ! のことなんて気にするな! おとお腹の子が無事なら、それで分だ!」
目ので繰り広げられる、流昼ドラ以の茶番劇。 私は胃の奥から込みげてくる烈な吐き気を、徹な理性の力で必に抑え込んでいた。
「徹、あなた本気で言っているの?」 私の氷のような声が、抱きうに突き刺さる。 「千百万よ? 会社のおよ? それを『気にするな』で済ませる気?」
「うるさいな!」徹が私を睨みつけた。 「美咲は追い詰められてたんだよ! 族いの優しい子じゃないか! 千百万くらい、会社で特別損失として処理すれば済む話だろ! 俺が社なんだから、俺の裁量で問にしてやるよ!」
会社の私物化、コンプライアンスの完全な崩壊。 この男は、経営者としての資質がゼロであるばかりか、としての倫理観すら完全に麻痺していた。 だが、私の罠は、横領の追及だけで終わるはずがなかった。