"同窓会でビールを浴びた私に、51人の男が最敬礼" 第9話
巨魁の臨と砂の
馬蔵の姿を認めた瞬、広文は文字通りに額を叩きつけた。
「か……会ッ!!」
喉が千切れんばかりの鳴のような声が、広文のから漏れた。全をガタガタと震わせ、の埃に額を擦り付けて微だにできない。戸を固めていた熊切組の若い衆も、膝から崩れ落ちるようにして両をにつき、額を擦り付けた。
勢子だけが、何が起きているのかを理解できず、呆然とち尽くしていた。
「な……誰よ、このじいさん……」
勢子が呟いた瞬、に平伏していた広文が、狂ったように叫んだ。
「黙れッ! をげろ、このド阿呆が! 龍会の総裁、馬蔵会様だッ!! おなんかがを利いていいお方じゃねえんだよッ!」
「か……会……?」
勢子の線が、蔵の胸元に落ちた。スーツの襟元にる、漆黒の台座に純の龍が彫り込まれたさなバッジ。本の直系最幹部すら直することを許されない、龍会の頂点の証。
そして、蔵の線は、平伏する広文にも、震える勢子にも向けられていなかった。
蔵は悠然とした取りで事務所の央へと歩み寄ると、ビールで濡れた着物を脱ぎ、今朝しい島紬に着替えて凛とつ妻・瑞の正面でを止めた。
「瑞」
く、しかし岩を穿つような太い声だった。
蔵のゴツゴツとしたきなが、瑞の華奢な肩にそっと置かれた。
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その仕には、数千の極を束ねる徹な支配者の顔はなく、ただの妻を慈しむ男の温もりが満ちていた。
「怪はなかったか」
「はい。丈夫です、あなた」
瑞が静かに微笑み、会釈を返す。
その景を目にした勢子の膝が、ガクガクと音をてて震え始めた。
昨、同窓会の会で「卒の縫製女」「継ぎ接ぎ」と嘲笑い、からビールを浴びせ、髪を引っ張り回した女。その女の肩を抱き、優しく語りかけている男こそが、この方の裏社会を完全に牛り、警察すら目置く絶対の支配者なのだ。
「う……嘘……嘘でしょ……」
勢子の喉から、掠れた空気の音が漏れた。
自分が誇らしげに見せびらかしていた「熊切組組夫」という肩き。太いのネックレス、級、同級たちを見ろして集めさせた端。そのすべてが、この目のにつ巨な怪物の元に転がる、砂粒ほどの価値すらないものだったという残酷な現実。
蔵は瑞からをすと、初めて線をに落とした。
平伏する広文の背に、徹な線が注がれる。
「熊切」
「ハ、ハイッ!!」
「おが俺の目を盗んで、こので何をやってきたか……梶原から報告は受けている。だが、それ以に……」
蔵の線が、壁際で蒼になってち竦む勢子へと向けられた。その双眸に宿る氷のようなに射抜かれ、勢子は息が止まりそうになった。
「俺の女のから酒を浴びせ、髪を掴んで引きずり回したそうだな」
ヒィッ……と、勢子の喉から引きつった鳴が漏れた。
「ち、違うんです……! 私、らなかったんです! 瑞が……梅本さんが、会さんの奥様だなんてらなくて……!」
勢子はに膝をつき、すがるように両を伸ばそうとした。しかし、蔵の脇に控えていた若の梶原が歩にて、そのを酷に踏み躙るような鋭い線で遮った。
蔵は勢子の弁など最初からに入っていないかのように、隣につ瑞を静かに見つめた。
「瑞。おの落としだ。……おが決めろ」
巨魁の静かな言葉が、静まり返った事務所に響きのように落ちた。