"「25万円振り込め」と脅す夫へ、私はもう妻じゃない" 第1話
25万円の話
「今の活費、25万円。まだ振り込まれてないぞ。俺をらせたいのか?」
夜を回ったビジネスホテルのに、夫・浩司の苛った声が響いた。
私はベッドの端に腰掛けたまま、窓際のさなテーブルに置いた枚のへ指先を滑らせていた。
婚届受理証。
役所の印が押されたそのを、浩司はまだ見たことがない。
、浩司自が署名して私へ渡した婚届は、昨、正式に窓で受理されていた。
「聞いてるのか、美穂。の朝番で振り込めよ。俺だって付きいがあるんだ。これ以俺をらせたら、本当に婚するぞ」
婚。
浩司は昔から、その言葉を私を黙らせるための具にしていた。
、「起業の準備に集したい」と会社を辞めた夫は、それ以来ほとんど収入がない。
私はフリーランスの設計士として宅やさな舗の設計を請け負い、の固定資産税も費も費も、同居している義母・富の通院費まで支払ってきた。
それでも浩司は、私に謝するどころか、
「でパソコンを叩いてるだけだろ」
「女が稼いでるからって偉そうにするな」
と平然と言った。
自分が妻に養われているという現実を認めたくなかったのだとう。
だから何かあるたびに「婚するぞ」とにした。
私がになることを恐れ、慌てて嫌を取ると、本気で信じていたのだ。
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「分かったわ。でも、今はどうしてそんなに必なの?」
私が静かに尋ねると、浩司は瞬黙った。
「だから起業のための脈作りだよ。おみたいににこもって仕事してる女には、社会の付きいなんて分からないだろ」
がった調の向こうから、静かなジャズが聞こえてきた。
続いて、グラス同士が軽く触れう音。
私は眉を寄せた。
今、浩司は自宅にいるはずだった。
富と暮らすあので、こんな音楽が流れることはない。
私は膝のに置いた黒いノートをいた。
この半、誰にも見せずに集め続けてきた記録だった。
浩司のカード利用細。
夜のファミリーレストランのレシート。
級ホテルの予約履歴。
私が買った覚えのない女性用ブランドバッグの保証。
のまま問い詰めれば、浩司は逆して証拠を処分する。
富も必ず息子をかばい、私を「疑いい嫁」に仕てるだろう。
だから私は黙った。
る代わりに付を記録し、額をき、写真を撮り、必なものはコピーした。
「お義母さんは?」
「もう寝たよ。おがいないから、俺が夕飯の世話までしてやったんだぞ。本当に気が利かない嫁だよな」
それも嘘だった。
張、私は蔵庫に分の惣菜を作り置きしていた。
容器ごとに付まで貼り、富が温めるだけでべられるようにしてある。
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浩司が台所につことなど、ほとんどない。
私は何も言わず、ノートのろに挟んである便箋のコピーへ目を落とした。
、富の部のゴミ箱から拾ったきだった。
《あの嫁を追いしたら、すぐにでもしい方をお迎えしますからね。浩司もそのを楽しみにしています》
最初に読んだ、指先が震えた。
夫だけではなかった。
義母もっている。
私の収入で暮らし、父が残してくれたにみながら、は私だけを追いす相談をしていた。
「とにかくの朝だからな。25万。しでも遅れたら、もうには入れないとえ」
そのだった。
「ねえ、まだ終わらないの? せっかくのワイン、ぬるくなっちゃう」
話の向こうから、若い女の甘い声がした。
浩司の呼吸が止まった。
私はテーブルのの婚届受理証にを置いた。
「今の、誰?」
数秒の沈黙。
そして浩司は、あまりにも分かりやすい嘘をついた。
「テレビだよ」
その瞬、私のに残っていた最の迷いが、静かに消えた。