"本当の家主" 第6話
ビジネスホテルでの決断と産会社への撃売却契約
がガラス窓を細かく叩く音が、ビジネスホテルのシングルルームにく響いていた。
部のには、かすかな除菌スプレーの匂いと、換気扇の回る無質な音だけが漂っている。のり子は濡れた髪をバスタオルで入りに拭き、備え付けの湯沸かしポットでお湯を沸かした。ティーバッグの緑茶をに含むと、芯までえ切っていた胃のあたりがじんわりと温まり、張り詰めていた神経がわずかに緩んだ。
ベッドのに、を避けて守り抜いた仕事用バッグのを丁寧に並べる。
緑ののファイルに包まれた『産識別報通』。法務局から発された、と建物の権利を証する唯無の公類だ。その横には、象で仕てられたのり子の実印、印鑑登録カード、そしてつ折りにされたあの赤いチラシ。
『即現化・秘密厳守。現状姿でスピード買い取り。残置物の処分、ち退き交渉も任能』
のり子は指先でその文字を静かになぞった。
、父と母が相次いでくなった、のり子は激しい喪失と孤独に打ちのめされた。実の広すぎるリビングにで座り、計の針の音だけを聞きながら夜をかした々のたさは、今でも皮膚の奥にこびりついている。
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あの暗から救ってくれると信じたからこそ、誠との結婚にすがりつき、彼の族を受け入れようと必だったのだ。
「でも、違った……」
のり子の唇から、乾いた声が漏れた。
彼らは族など求めていなかった。ただ、自分たちの活費を稼ぎ、広々とした居を提供し、汚れたを洗い、ゴミを片付ける便利な召使いを求めていただけだ。そしてしでも自分の志を見せれば、で踏みにじり、夜ののに叩きす。
「もう度と、あんな所へ戻るものですか」
元のスマートフォンが、震を繰り返した。画面をくと、誠からて続けにメッセージが届いている。
『今どこにいるんだ。母さんがり狂って血圧ががってるぞ』
『美がお腹空いたって泣いてるんだ。ピザの残りはもうない』
『おがを張るからのがめちゃくちゃだ。く帰ってきて片付けろ』
『座して謝るなら、今回は目に見てやる。の朝までに戻れ』
どこまでもから目線の、自らの非を爪の先ほども認めていない文面。のり子は返信することなく、スマートフォンの通を完全にオフにして画面を伏せた。
翌朝、午。
カーテンをけると、昨夜のが嘘のようにれ渡り、澄み切ったの青空が広がっていた。のり子はだしなみをえ、会社へ休暇の連絡を入れた。
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直属の司は、普段無遅刻無欠勤ののり子が珍しく休暇を申したことをく承諾し、「たまにはゆっくり休みなさい」と優しい言葉をかけてくれた。その何気ない気遣いに、義族から受け続けた仕打ちとの落差を改めて痛し、胸が締め付けられる。
午、のり子はチラシに記載されていたフリーダイヤルへ話をかけた。
『お話ありがとうございます。未来産買取センターです』
話にた担当の男性社員・に、のり子は極めて落ち着いた声で件を告げた。
「チラシを拝見してお話いたしました。戸建て宅の即買い取りを希望しています。私単独の名義で、抵当権の残債も売却代で即括返済が能です。現、親族が居ですが、ち退き交渉と内の残置物処分も含めて、現状姿で引き取っていただける業者様を探しております」
の声のトーンが、ビジネスモードへと即座に切り替わった。
『承いたしました。名義様ご本のごであれば、法な問題は切ございません。本午に、登記類とご本確認類をお持ちの、弊社オフィスへお越しいただけますでしょうか。即決済の筈をえます』
午、駅通りのオフィスビル。
応接で迎えたと、提携司法士の女性は、のり子が持参した権利証、印鑑証、固定資産税の納税通を迅速に確認した。
パソコンの画面で登記事項証と公図が照され、類に点の瑕疵もないことが数分で確認される。
「違いなく、奥様単独のご所ですね。購入資も相続財産からの拠ということで、婚姻期であっても特財産と見なされ、配偶者様の同印は法に切です」
司法士のな言葉に、のり子はく頷いた。
提示された買取額は、価格の約割。両親の遺産から投入した額のを考えれば、幅な銭損失であることは否めなかった。しかし、が続けた言葉が、のり子の背を決定に押しした。
「居者の方々のち退きにつきましては、本午、所権移転の登記完と同に、弊社の専部隊が現へ向かいます。法占拠者としての退通告をい、鍵の交換まで即座に完させます。奥様が彼らと直接顔をわせる必は切ございません」
「……お願いします。その条件で、契約を結ばせてください」
のり子は差しされた売買契約に署名し、朱肉をつけた実印を力く押し込んだ。、自らを縛り付けていた見えない呪縛が、ので断ち切られた瞬だった。