みかん小説
本棚

"本当の家主" 第5話

夜のと閉ざされたカーテン

「お母さん! お義姉さんが……お義姉さんが急に暴れて、私を突きばしたのよ!」

美はにへたり込んだまま、恥も聞もなく母親にすがりついて嘘を並べてた。かよは娘を抱き起こすと、鬼のような形相でのり子を睨みつけた。吊りがった細い目に、憎悪の炎がギラギラと燃え盛っている。

「あんた……! うちの切な美に何をしたんだい! 嫁の分際で、この子にを挙げるなんてどういうつもりだ!」

「私は突きばしていません。美さんが自分で散らかしたピザの箱を踏んで滑っただけです」

のり子がを交えずに事実を伝えると、かよは激昂して唾をばした。

「嘘をおつき! 美がそんな抜けなことするわけないだろ! あんたは昔からそうやって、美を邪魔者扱いして見してきたんだ! 男の嫁のくせに、子供のも産めない役たずが、何を偉そうに!」

男の嫁、役たず、居候。かよのから吐きされる罵詈雑言の数々。このを誰のが支えているのか、その現実を切見ようとせず、自分たちが絶対な支配者であると信じ込んで疑わない。

「お義母さん、リビングのこの惨状を見てください。私はこれを片付けるのを断っただけです。私はこのの政婦ではありません」

「だから何だって言うんだよ! 掃除くらい、にいるあんたがさっさとやれば済む話だろうが! 美はお腹を空かせて待ってたんだよ! それを飯も作らず、文句を垂れるなんて、のがないのかい!」

広告

理屈など、最初から通用しない相だった。かよの腕ので、美がのり子に向かってニヤリと嘲笑を浮かべていた。

「もういいわ! あんたみたいな酷で恩らずな女は、うちの敷居を跨ぐ資格はない! 今すぐてきなさい!」

かよは突然ちがると、のり子の腕を掴んで廊へと引きずりした。を過ぎているとはえない、狂気じみた力だった。玄関ホールへ辿り着くと、かよは飾り棚のに置かれていたのり子の通勤バッグを乱暴に引っ掴んだ。

「お義母さん、何をするんですか!」

「をやしてきなさい! 晩で反省して、の朝、美に座して謝るまで、絶対にには入れないからね!」

かよは玄関のい防犯ドアを力任せに押しけると、のり子のバッグを暗のるのポーチへ向かって力いっぱい放り投げた。ドサッ、と鈍い音をててバッグがコンクリートのに転がる。そして次の瞬、かよの両がのり子の胸元を容赦なく突きばした。

「きゃっ!」

よろめいたのり子は、靴も履けないまま、ストッキングのでたいのる玄関ポーチへと弾きされた。

「ちょっと待ってください! ドアをけて——!」

バタンッ!

激しい属音とともにドアが叩きつけられ、内側からガチャン、ガチャンとロックが固にかけられる音が響いた。

広告

のり子は素のまま、え切ったドアのノブにをかけ、激しくノックした。

「けてください! お義母さん! 美さん!」

しかし、分いドアの向こうからは、美の「ざまあみろ!」という甲い笑い声と、かよの勝ち誇ったような鳴り声が微かに漏れてくるだけだった。空からは、いつのにかたいのが本りとなってり注いでいた。粒がのり子の髪やのブラウスを容赦なく濡らし、体温を急速に奪っていく。元のストッキングはを含んで黒く汚れ、氷のようなたさが先からいがってきた。

その、のり子は元に転がっていたバッグを慌てて抱き起こした。幸いにも頑丈なファスナーは閉まったままで、の類は無事だった。このバッグのには、財布、スマートフォン、そして何よりな、このの権利証と実印が入っている。義母はのり子を無文で放りしたつもりだったのだろう。しかし皮肉にも、彼女はこのの所権のすべてをのり子に持たせたまま、へ叩きしたのだ。

「……あなた……」

ふと見げると、階のリビングのきな引き違い窓に、オレンジのかりが灯っていた。窓の内側に、がっていた。夫の誠だった。騒ぎを聞きつけて自からてきたのだろう。のり子は最の希望をすがりつかせるように、ずぶ濡れになりながら窓へと歩み寄った。

「あなた……けて! お願い、に入れて……!」

声は音にかき消されていたが、のり子は必に元をかし、窓ガラスにを当てた。しかし、ガラスの向こうにつ誠の顔には、に打たれる妻を案じるなど微もなかった。浮かんでいたのは、「おがを張るからこうなるんだ」と言わんばかりの、淡でうんざりとした侮蔑の笑みだった。

誠はのり子と線をわせると、嘲笑うようにさく首を横に振った。そして、ゆっくりと両を伸ばし——。

シャッ!

のり子の界を完全に遮断するように、分い遮カーテンを気に閉め切った。が消えた。温もりも、救いも、信じようとしてきた「族」という名のも、すべてが漆黒ののへと消滅した。たいのが、打ち捨てられたのり子の肩を、ただ静かに打ち据え続けていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: