"本当の家主" 第3話
引き抜かれた薔薇と財布の秘密
暗い廊を歩きながら、のり子はヶの来事をいしていた。
そのの午、休暇を取っていたのり子は、庭の入れをするために裏へ向かっていた。勝の網戸越しに、義母のかよが所の主婦とち話をしている甲い声が聞こえてきたのだ。
『まあ、さんのお宅は派な注文宅ですねえ。ご男さんが建てられたんですか?』
所の奥さんの問いかけに、かよはこれ見よがしに胸を張り、周囲に響き渡る声で誇らしげに答えていた。
『ええ、そうなのよ! うちの自の男・誠がね、母親である私の終の棲として建ててくれたの。妹の美が独でも困らないようにって、わざわざ部数もく作ってくれてねえ。本当に親いのいい息子を持てて、私はがいわよ!』
その言葉を聞いたとき、のり子は剪定バサミを握りしめたまま、そのに釘付けになった。
誠が建てた。それは完全な虚飾であり、事実無根の妄だった。
このは、、病気で相次いで界したのり子の実父母が遺してくれた遺産を元に購入したものだ。建物の建築費千百万円のうち、千万円は両親の命保険と預貯から括で支払い、残りの千百万円も、のり子自の単独名義での宅ローンを組んで支払っている。
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夫である誠は、どころか登記にかかる諸経費すら円もしていない。
それにもかかわらず、義母は「男の」だと頑信し、のり子を居候の居候、召使として扱ってきた。
その数、さらに決定な事件が起きた。
リビングの掃きし窓のすぐ、のり子がき母の形見として実から株分けして移植し、かけて切に育てていたイングリッシュローズの鉢植えと壇の株が、根元から無残に引き抜かれ、ゴミ集積所に捨てられていたのだ。
驚愕して青ざめるのり子に対し、庭でをいじっていた義母のかよは、袋のを払いながら然と言い放った。
『ああ、あのトゲだらけのね。入れが面倒だし、目障りだから引っこ抜いて捨てておいたわよ。あそこは私の庭菜園にして、キュウリとトマトを植えることにしたから』
『お義母さん……! あれは、私の母が切にしていた形見の薔薇なんです! どうして勝なことをするんですか!』
激昂したのり子に対し、かよは眉つかさず、嘲笑を浮かべてを鳴らした。
『形見だか何だからないけど、ここは男のの庭だよ! 息子のの敷を、母親である私がどう使おうと私の勝だろうが! 文句があるなら、てけばいいじゃないかい!』
あの瞬、のり子ので何かが音をてて砕け散った。
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このたちにとって、自分は族でもでもない。息子の稼ぎ(と彼らがい込んでいるもの)にぶらがる寄虫であり、都のいい労働力に過ぎないのだ。
廊の途でを止め、のり子は飾り棚のに置いてあった自らの通勤用本革トートバッグのにった。
ファスナーをけ、内ポケットから財布を取りす。その奥の、普段はけない仕切りのから、つ折りにされた枚のチラシを指先で引き抜いた。数週、自宅のポストに投函されていた、産買い取り専業者のチラシだった。
『即現化・秘密厳守。ご族に内緒でのスピード査定能。現状姿(現状のまま)で買い取ります。内の残置物・用品の処分も当社ですべて引き受けます。ち退き交渉も任能』
赤い太文字で印刷されたその文言を、のり子はこれまで何度も、息が詰まりそうになる夜にトイレの個で広げては眺めていた。
もし、このを放してしまったら。すべてを現に変えて、誰も自分をらない静かなへ逃げてしまえたら——。
それは、孤独を恐れて義族の理尽に耐え続けてきたのり子にとって、唯の逃避の妄であり、精神の全弁だった。だが、今、このチラシはもはや単なる現実逃避の切れではなかった。
のり子はチラシを丁寧に畳み直して財布に戻すと、バッグの底にを沈めた。
底板のに滑り込ませてある、な緑のケース。に入っているのは、このと建物の『産識別報通(権利証)』、そしてのり子の実印と印鑑登録カードだった。
義母のかよは、のり子が仕事で留守のに勝に夫婦の寝を漁り、引きしをける悪癖があった。そのため、のり子は最もな権利証と実印を、肌さず通勤バッグの底に入れて持ち歩いていたのだ。
このの法所権は、百パーセントのり子にある。売却するにあたって、夫の同も、義母や義妹の許も、法律は切必ない。
のり子はバッグのファスナーを静かに閉め、徹な静寂を胸に宿して、再びリビングの扉へと向かった。