"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第12話
約束を変える
の終わり、文は幸子と緒に野へ向かう準備をした。今度は田宮のようなに無理を言う必はない。自分で受けた注文をめに仕げ、納品と帰宅をいたを客に渡してからかけた。それでも、旅の費用は決して軽くなかった。
「今度の約束は、を決めて帰ってくることだよ」
文が言うと、幸子は笑って「ってる」と答えた。とも、の旅からし変わっていた。
に着くと、が根の側にく残っていた。ふさは台所で根を切っていたが、のきは鈍かった。文がを取ると、指が腫れている。
「無理してしまいました。せっかく教わったのに」
「直ったミシンが悪かったわけじゃありません。仕事を増やすなら、体を休ませるも増やさなきゃいけない」
ふさは俯いた。「働かないを作ったら、べるものが減るような気がするんです」と言った。
栄蔵は囲炉裏ので、からの畑仕事について話した。ふさがい仕事をできないなら、畑のやり方も変えなければならない。栄蔵は所の者と相談し、部の畑を入れしやすい作物へ替えること、仕事の賃をあてにしすぎないことを決めたという。
「女の縫い物で全部を埋めようとしたのが、いかんかった」
栄蔵は苦い顔で言った。ふさは夫を見た。
広告
いつも田仕事のことなら自分で決める男が、初めて妻の仕事のさをにしたのだ。
文はそのの午、ふさと古いミシンのに座った。ふさは針を持つをくしていたが、布の裁ち方を教えることなら来た。の所の女性が端切れを持ってきて、裾を揃える方法を聞いた。ふさは、文が昔教えた型をし、布をねて切ってみせた。
「縫うのが遅くても、裁つところだけなら緒に来ますね」
ふさはそう言って笑った。自分のがくなった、何も来ないになってしまったとっていたのだろう。文は、技術を持っていることと、で全部を引き受けることは違うと話した。
その、栄蔵が納へ来た。男のには、裁った布を束ねるための紐があった。以なら女たちの仕事だと決めつけ、寄らなかった所だった。
「俺にも来ることがあるなら言ってくれ。細かな縫い目は無理だが、荷物を運ぶくらいはする」
ふさは「じゃあ、町へ納めるはお願い」と答えた。栄蔵はぎこちなく頷く。文は、のの役割が変わる、派な言葉はなくてもよいのだとった。さな仕事を誰がするか、ただそれを相談し直せばいい。
そのの午、志乃が千代を連れてへ来た。町で暮らしたひと半のに、千代はし背が伸びたように見えた。
広告
幸子は抱きつきかけたが、ち止まって「元気だった?」と聞いた。
「うん。算術のさい試験で、丸をいっぱいもらった」
千代は嬉しそうにをした。赤い丸がいくつも並んでいる。幸子は胸の奥に複雑なものが広がるのをじた。自分のいない所で、千代の活はんでいた。
全員が揃ったところで、志乃が提案した。
「千代を、このから町の学へ通わせたいとっています。学の先とも話しました。うちで暮らして、休みにはこちらへ帰れるようにしたいのです」
ふさは目を伏せ、栄蔵は囲炉裏のを見つめた。幸子はわず「千代ちゃんは?」と尋ねた。
志乃は隣へ座る女を見た。
「自分で話せるかい」
千代はすぐには答えなかった。膝ので両を組み、顔をげるまでいがかかった。
「わたし、町の学へきたい。しい本も読んでみたい。でも、お母ちゃんに会えないのは嫌だから、に度は帰りたい。畑が忙しいは、もうし伝う」
栄蔵が「伝わんでいい」と言いかけたが、ふさが止めた。
「千代がしたいことを話してるんだから、最まで聞こう」
千代は続けた。
「おばさんのおをつだうは、学が終わってからしだけにしたい。病気のは休みたい。あのね、へ帰ってくる、よその子みたいに玄関で『お邪魔します』って言いたくない」
ふさはを押さえた。栄蔵は黙って頷いた。
幸子は、これまで自分がっていた結末と違うことに気づいた。千代をへ連れ戻し、母親のそばへ置けば約束を守れるとっていた。だが、千代にはへ戻ることと同じくらい、しい学で勉したい気持ちがあった。
「わたし、千代ちゃんがずっとにいる方がいいってってた」
幸子が言うと、千代は首を傾げた。
「幸ちゃんが京に帰った、わたし、置いていかれるみたいで嫌だった。でも町へってみたら、楽しいこともあった。お母ちゃんには会いたいけど、らないままの方がよかったとはわない」
文はを見つめた。娘が京でへ帰りたいと言った、文は、自分がらなくなったのだとった。けれど娘が別の所を切にすることは、母を捨てることではなかった。
栄蔵がようやくをいた。
「千代。おの話を聞いた。俺は、おに飯をわせられんとわれるのが怖かった。だから妹に預けることをく決めて、あとは考えないようにしとった」
千代は父を見た。
「わたし、飯だけべたいわけじゃないよ」
「そうだな。そんなことも、聞かずにいた」
栄蔵はをげた。ふさは泣きながら笑った。
しかし話はそれで終わらなかった。志乃が差ししたには、学へ通う費用、や記用具の用、帰省のための交通費がかれていた。
志乃のにも、何もかも負担できるほどの余裕はない。
栄蔵は額を見て、また黙り込んだ。ふさは「縫い物が来たら」と言いかけ、を握った。
そこで文がをいた。
「度に全部を揃えなくてもいいでしょう。まず必なものだけ決めて、次のにいるものを分けて考えませんか。千代ちゃんの着は、古い布から直せます。でも、私が全部を縫う約束はしません。京の仕事がありますから」
ふさは微笑んだ。「それでいいといます」と答えた。
志乃は、の伝いをどう扱うか、にいて千代へも読んで聞かせることにした。の都で学を休ませない、病気のは働かせない、本が困ったら直接相談できるを町にもにも置く。そんなことをつずつ決めた。
千代はたちの話をじっと聞き、最に言った。
「わたし、になったら町の学へく。それで、次の休みには必ずへ帰ってくる」
その言葉に、今度は誰も「無理だ」と言わなかった。来るかどうかを緒に考えるための約束になっていたからだ。
夜、幸子は千代の隣で眠った。布団ので千代がさく尋ねた。
「幸ちゃん。わたしがにずっといなくても、約束は破ったことにならない?」
「ならないよ」
幸子はし考え、答えを付けした。
「わたし、千代ちゃんがどうしたいか聞きに来るって約束したんだとう。
迎えに来るだけじゃ、りなかったね」
千代は「そうだね」と笑った。はい、眠らずに井の目を眺めていた。