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"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第11話

までに決めること

の瀬、文は幸子と緒に焼け跡のを歩いた。しいに使うや糸が欲しかったが、には品物がなく、値段も落ち着かなかった。幸子は父がよく買ってくれた飴を見つけ、ち止まった。文が「つだけ買おうか」と聞くと、幸子は「今はいい」と答えた。

「しなくていいんだよ」

「じゃないの。お父さんとべたのを、まだ忘れたくないから」

文は言葉を失った。んだのいを事にすることは、しい顔をしていることばかりではない。幸子は飴を見つめ、し微笑んだ、自分から歩きした。

帰り、文は庄のことを話した。夫は器用なではなく、具を直そうとしてかえって壊したことが何度もあった。幸子がさかった頃、とで作った玩具はすぐに輪がれ、娘は泣いた。庄は恥ずかしそうに「次はもうし丈夫にする」と言い、夜遅くまで作り直した。

「お父さん、そんなことしたんだ」

「うん。何でも来るじゃなかったけど、何度もやってみるだったよ」

幸子は父の止まった懐計をいした。壊れたまま切にしていたのは、刻をるためではなかった。針がかなくても、自分が覚えているはなくならない。幸子はその夜、計を箱へしまい、「今度はちゃんと持っていよう」

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と言った。

昭の正は、どこか落ち着かないうちに過ぎた。文のむでは、餅をつけなかったもかった。正といっても、いつもよりしく話し、誰かが分けてくれた野菜を汁へ入れるだけのだった。

幸子はにされた宿題を終え、学が始まるのを待っていた。野からは、千代がだるまを作ったこと、ふさのミシンが寒い朝にはきにくいこと、枚の袋は志乃が使えるものだけを買い取ってくれたことが伝わっていた。残り枚はから縫い直したが、その分の代は最初の約束よりなかったという。

「それでも、お母ちゃんはおをもらって笑ってた」

千代の便りにはそうかれていた。幸子は文に何度も読んで聞かせた。

ところが正がけてまもなく、千代からのが途絶えた。最初はでが塞がれたのだろうと考えた。けれど週経っても何も届かない。幸子は郵便配達の音がするたび表へびし、何もないと畳へ戻った。

文は配した。娘が再び、京に戻ってきたのように黙り込んでしまったからだ。

「千代ちゃんのおへ、をそうか」

「もう通した。でも返事がない」

「じゃあ、し待ってみよう」

「わたし、待つだけなのが嫌なんだ」

幸子の言葉に、文は答えかけて止めた。

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自分も疎の娘から便りがない、何もできずに待つことを憎んだ。今度は娘が、同じを過ごしている。

数、ようやく封筒が届いた。差は千代ではなく、志乃だった。

《千代は先週から、うちで暮らしています。正式に引き取ったのではありません。のだけ、町の学へ通わせるためです。兄と嫂さんは承しています》

幸子はを握ってちがった。

「お母さん、だって千代ちゃんは嫌だって言ってたのに!」

そのに、志乃の字が続いていた。

《先のようにで歩かないよう、私が迎えにきました。千代には自分で決めるがるといます。こちらで見たことや聞いたことを、隠さずにかせます》

文は最まで読んだ。それは千代を奪ったというらせではなかった。けれど、幸子にとっては、帰ってきてほしかったがまたくへったようならせだった。

志乃ので千代が初めて任された仕事は、の包みをきさ別に分けることだった。千代は伝いのが終わったも、つい続きをしようとした。すると志乃が「今はもう終わりだよ」と包みを取りげた。千代は叱られたのかとい、体をさくした。

「どうして、まだ来るのにやめるの」

「おのがくからって、いつでも働かせていいわけじゃないよ。

今から本を読むだろう」

志乃はの奥のさな机を指さした。千代はそこへ座り、見慣れない図の載った本をいた。の学で教わった名以にも、川やが幾つもあることをった。夜、母に会いたくなって泣くことはあったが、泣きながらでも次のは学へった。

志乃も簡単ではなかった。が忙しい朝には、つい千代へ「荷物をして」と頼みかけた。途でい直して自分で抱えると、夫から「そんなに無理をしなくても」と言われた。「あの子を預かるなら、預かった責任がある」と志乃は答えた。親戚の子を預かることは、働きを増やすことではないと、志乃自も覚え直していた。

千代はにそこまで詳しくかなかった。けれどある、志乃が自分の名をいたさな袋を作ってくれたと伝えた。《おのものじゃなくて、千代のものだって。うれしかった》と結んであった。幸子はそのを読んで、胸のの配がし違う形になった。

「お母さん、度、千代ちゃんに会いにきたい」

「今はで汽も変だよ」

「わたし、もう逃げしたりしない。ただ、本当に丈夫か、聞きたいの」

文は、娘が初めて「絶対に連れ戻す」と言わなかったことに気づいた。

それでも発することはできない。文は昨末から、共同炊事のたちに頼まれて、作業着の繕いをまとめて引き受けていた。

材料は古布だったが、決まったに納めれば賃のしになる。約束を破れば、また注文を失う。

「会いにくかわりに、まず千代ちゃん自の言葉を聞こう」

文は志乃へ返事をき、幸子がりたいことをつ並べた。学へけているか。田畑やの伝いばかりしていないか。になったらどこで暮らしたいか。

返事を待つ、幸子は学の教で代へ相談した。代はじっと話を聞き、「幸ちゃんが『帰ってきて』っていたら、千代ちゃんは困るかもしれないね」と言った。

「どうして?」

「だって、もし町の学が楽しかったら、幸ちゃんをしませたくなくて、楽しいって言えないじゃない」

幸子ははっとした。自分が母に、へ戻りたいと言えずにいたと同じだ。

その夜、幸子はいをいた。

《千代ちゃん、わたしは千代ちゃんがつらいいをしてないか配です。でも、もししい学が楽しかったら、そういてください。わたしはらないから。嫌なことがあったら、嫌だといてね。どちらでも、ちゃんと読みます》

をした翌週、千代から返事が来た。

《学は楽しい。町の本で、絵のある本も見た。おばさんは、おをつだうときはを決めてくれる。だけど、夜はお母ちゃんがいなくてさびしい。わたし、まだ決められない》

幸子はそのを胸へ押し当てた。

しいと楽しいは、同じのに同にある。に戻りたいと願いながら京の母をしている自分と同じだった。

その晩、文はしい仕事の仕てを終え、針を抜きながら言った。

「決められないに、決めなくてもいいって言ってくれるがいると、し楽になるね」

「お母さんも、そういうが欲しかった?」

文は笑った。「今は、幸子がいるから」と答えた。

だが半ば、栗田からのしい便りは、また別の決断を迫った。ふさの首が再び悪くなり、医者から、しばらくい針仕事を休むよう言われたという。栄蔵は、妻の働きに頼る見通しをて直さなければならなくなった。

そして、千代のき先をまでに決めたい、と文たちにらせてきたのである。

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