"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第9話
できることを数える
の初め、京にはたいがるが増えた。文は所のを回り、繕い物の注文を集めた。最初はさな仕事しかなかった。破れた袋、擦り切れた袖、子どもの肩へ別布を当てる仕事。つずつ値を決め、受け取るをへき、守るようにした。
幸子は放課、から届いたを読んでいた。千代の字にはまだ濁点の付け忘れがい。けれど、毎学へ通っていること、ミシンをふさがいだけ踏んでいることがかれていた。最に必ず《幸ちゃんの学はどうですか》とある。
幸子は返事に困った。京の学では、らないうちに友達同士の仲が変わっていた。終戦の、教科の部を黒く塗り、先の説も以とは違っていた。で千代と読んだ本を持っていくと、都会の子に「そんな古い字を勉してたの」と笑われた。
それでも、幸子はしずつ学へくことを楽しみにしていた。しい友達の代は、幸子が野で教わった縄の結び方にし、代わりに京で覚えた算術を教えてくれた。互いに教えることがあると分かってから、幸子は以ほど居所を探さなくなった。
ある、文はの隣から変わった注文を受けた。子どもがきくなって着られなくなった半纏を、別の子の寸法へ直してほしいという。
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ただ布がりず、袖だけでは済まない。文はから持ってきた古布をね、細かな接ぎの見本を作った。
「が違うね」と幸子が言う。
「だから、違うをわざと揃えて並べてみる。隠そうとすると、かえって粗が目つから」
文は布を角に裁ち、衿と袖へ同じ模様のように縫い付けた。完成すると、寄せ集めの布が最初からそういうだったかのように見えた。
初枝は驚いて、「これなら娘もぶ」と笑った。隣の女性がそれを見て、同じ形で枚頼みたいと言う。やがて、仕事の相談がぽつぽつ来るようになった。
文はそこで初めて、野のふさへをいた。
《古い布の傷みを隠すのではなく、同じ形の布を何枚か並べると、よい着になります。もしそちらでも元に古布があれば、まず寸法の揃ったさなものを縫ってみてください。ただし、おになる注文は、約束した数量と代が決まってからにしましょう》
と緒に、型を種類送った。片方は子どもの袖、もう片方は布団の角を補うためのものだった。どちらも難しい仕事ではないが、同じ形に切り揃える正確さがいる。
その頃、幸子の学では、さな文集を作ることになっていた。戦争が終わってから、何を見て何を考えたか、ずつくのだ。幸子は最初、何もけなかった。
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焼け跡も、父のも、野のも、の子が読んだらどんな顔をするのか分からなかったからだ。
代は「番楽しかったことをいたら」と言った。幸子は首を横に振った。「楽しかったことだけくと、嘘になる」と答える。代はしばらく考え、「じゃあ、どっちもけばいいんじゃない」と言った。
幸子はその晩、作文用に《でべた麦飯》と題をつけた。べ物がなくても、千代とおかずを分けって笑ったのこと。に何も言えず、辛かったのこと。帰京に喧嘩してしまったこと。きめるうち、胸の奥でつになっていた記憶が、いくつものへ分かれていった。
翌、先が文章を見て言った。「幸子さんは、のが嫌いになったわけじゃないんだね」。幸子は驚いた。「嫌いじゃありません」と答えた。「だから、京へ帰ってきてからも、忘れられないんです」
学から帰ると、文が古布の模様を並べていた。幸子は作文を母へ渡した。文は針を置き、最初から最まで読んだ。読み終えると「お母さんのらない幸子が、ここにいるね」と言った。娘はし照れたが、をしまわなかった。母に見せてよかったとった。
返事はほどして届いた。ふさは枚縫ってみたが、首の痛みで途から針が持てなくなり、隣にむ女性へ伝ってもらったという。
《では来ぬことを、でやりました。よそへ頼んだのはし恥ずかしかったけれど、仕がりました》
その言葉を読んだ文は、すぐに返事をいた。
《恥ずかしくありません。ただし、伝ったにも仕事の分を渡してください。私もで来ないことがたくさんあります》
そんな折、千代の叔母・志乃から文へ別のが届いた。志乃のではに帳の敷物や荷物を包む布袋を調したかったが、しい布はに入りにくかった。古い袋を縫い直せないかと考えているという。
《もし栗田ので縫えるなら、うちから何枚か預けようかといます。兄には、私がを回したと言わないでください。気を悪くするかもしれません》
文は読みながら眉をひそめた。仕事が欲しいのは確かだが、親戚の好だけを当てにすれば、続かなかったにまた族が傷つく。
文は志乃へ、仕事の枚数と納期と代を先に決めるよういた。そのうえで、ふさが引き受けるなら度だけ試してほしい、と付け加えた。
数、ふさから《枚なら来そうです》という返事が来た。文はを握ってほっとした。だがそのの夜、幸子は議そうに尋ねた。
「お母さん、なんで千代ちゃんの叔母さんは、助けるのに内緒にしたいの」
「助けてるとわれるのが嫌なのかもしれないし、栄蔵さんが自分で決めたことにしたいのかもしれないね」
「って、面倒くさい」
文はわず笑った。「そうだね」と答えた。
仕事の話がまとまりかけた頃、野からしいが届いた。今度は栄蔵自の字だった。
《志乃のの袋の件、私は聞いております。妹の好を仕事と呼ぶのは申し訳ないが、約束を決めた以、来るだけのことはいたします。ただ、千代をどうするか、の終わりまで考えるをください》
文はの最のを何度も読んだ。娘をに置くと決めたわけではない。けれど、父親が初めて、決めるためのを族へ渡そうとしていた。
幸子はその夜、千代へをいた。
《おとなのの仕事はまだ決まらないことがたくさんあります。でも、わたしは学へっています。千代ちゃんも、はってね。おやくそくは忘れていません》
き終えると、幸子は赤い糸をし切り、封筒に入れた。千代がいつか、自分の袋を自分で直すかもしれない。そんなさな未来を考えられるようになった。