"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第4話
でく理由
文は予定よりく縫い物を仕げるため、夜まで針をかした。幸子には勉と器洗いだけを頼み、自分の仕事は任せなかった。娘が「わたしも伝う」と言うたび、「今は緒にく準備をしているんだよ」と答えた。
約束を果たせるかどうかは分からない。それでも、へって事を聞くことならできる。文はそう決めたのだ。
仕事を引き受けていた雑貨の主・田宮は渋い顔をした。「これから客が増えるというに」と言う。文が事を話すと、田宮は目を細めた。
「戦争、あんたの娘さんを預かってくれたか。恩義はあるだろうが、のに首を突っ込んで、自分の暮らしを壊したらいけないよ」
「わかっています」
「本当にわかっているなら、戻るだけは決めてきなさい」
文は晩留守にする約束をした。それ以延びれば、次の仕ての仕事は別のへ回されるという。っているわけではない。の側にも暮らしがあるのだ。
発夜、文は娘の李から、千代のいたをもう度取りした。赤い糸は、ほつれた袋を繕った糸に似ている。
「この糸、千代ちゃんがくれたの?」
「うん。千代ちゃんのお母ちゃんが、昔、町の仕で働いていたの残りなんだって。うちにはもうミシンの皮の紐がなくてかないから、で縫うしかないって」
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文は顔をげた。
「ミシンはあるの?」
「納の奥。壊れたまま。おじさんは邪魔だって言ってた」
回しではなく踏み式のミシンなら、皮の駆ベルトが切れても直せる能性がある。文は昔、所の仕でベルトを革紐に替えるのを見たことがあった。だが械が直っただけで注文が増えるわけではない。そこまで分かっていても、胸のにさな考えがまれた。
翌朝、文は袋の底へ銭を縫い込んだ。汽の切符は何とかに入ったが、荷物は最限にした。李ではなく呂敷つ。幸子が持っていきたいと言ったのは、で使っていた赤い袋と作文の束だけだった。
京をる列には、荷物を担いだがかった。座席は埋まり、通にったままの客もいた。幸子は母とれないよう、袖をしっかりつかんでいた。
汽が町をれると、窓のに畑が増えた。幸子は次第に数がくなった。あの曲がりをへくと栗田さんの、学のにきな杏がある、は井戸の縁が凍る。母のらないが、窓の景にわせて次々と現れた。
文はそれを聞きながら、娘が京では黙りがちだった理由をしだけ理解した。京で幸子は、帰ってきたのに何もらない子になっていた。あのでは、もも仕事もっているの仲だった。
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夕方、のさな駅に着いた。農まで歩く途、幸子はのでを止めた。
「ここで喧嘩したの」
川沿いのだった。帰京、幸子は千代の父・栄蔵に向かって「千代ちゃんは物じゃない」と叫んだ。たちが驚いているに千代が駆けし、はこので泣いたという。
「お母さんが来てくれなかったら、千代ちゃんはわたしを嘘つきだとったかな」
「まだ何もしていないよ。約束を守れるとも決まっていない」
「うん。でも、話を聞きに来た」
娘はそう答えた。文は頷いた。
栗田のには干した稲束が積まれ、軒に根の葉が吊るされていた。幸子が「ただいま!」と叫ぶと、の奥から栗田ふさがてきた。
ふさは幸子を見るなり笑顔になったが、文を見てすぐ真顔になった。
「いところを、ようお越しくださいました。……千代のことでしょう」
その背で、歳の千代が戸にっていた。の様子を窺いながら、さな呂敷を胸に抱えている。
「幸ちゃん、来てくれたの」
幸子は駆け寄ろうとして止まった。千代の元には、旅支度をした履が揃えてあった。