"疎開から戻った娘が、再び村へ帰りたがった理由" 第3話
針本の値段
文には、末までに仕げなければならない仕事が枚あった。りいの雑貨から預かった仕事で、男物の背広を子ども用に直すものもあれば、ほどいた着物を半纏に仕てるものもある。布がりないため、切り違えればしい材料を買うこともできない。
翌、幸子は学帰りに雑貨へ寄り、仕て仕事をしている母の様子を見ていたという。帰るなり言った。
「お母さん、わたしも縫う。でやれば、く終わるでしょう」
「学の勉をしなさい」
「では毎、仕事をしたよ」
「だから今は勉してほしいんだよ」
文がく言うと、幸子は黙った。働くことを褒められてきた子に、働くなと言う難しさを文は初めてった。
その夜、の隣・井初枝が、繕い物を持ってきた。初枝はさな子を抱えており、までに着を直したいのだと言う。文が額を告げると、初枝はため息をついた。
「こんな分に縫い賃まで払うのは変だねえ。でも、自分じゃ針が持てなくて」
幸子はの話を聞いていた。母が受け取るは決してくない。針本、糸巻を無駄にしないで得るだ。そのから賃をし、麦や芋を買い、学に使うを探す。
夜更け、幸子が寝てから、文は栗田ふさへをいた。
《娘からお話を聞きました。
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ご族のご事をじげず、軽々しくお力になるとは申せません。ただ、千代さんが学を続けられる方法について、そちらではどなたに相談なさっていますか》
き終えた文は、翌朝郵便をすつもりで机の隅へ置いた。
ところが翌朝、封筒はなくなっていた。幸子が先に郵便をしたという。文は驚いたが、宛先が分かっているのならよいと考え直した。
、京へ栗田から報が届いた。幸子が学から帰るよりく、文が受け取った。
《チヨ シュウカクゴ シンセキヘ イク フサ》
収穫、千代は親戚のへく。文はを何度も読み返した。急なことなのだろうか。親戚のなら、すぐに幸になると決まったわけでもない。しかし幸子には、いつ、どう告げればよいのか。
帰宅した幸子は報を見ると、顔から血の気が引いた。
「収穫が終わったらって、今週じゃない!」
文は壁の暦を見た。では稲刈りの終わりがいだろう。京でのとの仕事のが、急に違う速さで流れ始めた。
「お母さん、緒にこう」
「今週は無理だよ。預かった仕事がある」
「わたしでもく」
「歳の子を、この期にで野へかせられるわけがない!」
幸子は唇を噛んだ。あのの駅までのはっている。けれど、汽の切符もべ物も必だ。
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文は娘の考えを見透かしたように言った。
「頼むから、黙ってていくようなことだけはしないで」
「じゃあ、どうしたらいいの」
文にも分からなかった。いま失えば困る仕事と、いま逃せばにわない約束。どちらも目のにあった。
翌朝、文は古い懐計を探している幸子に気づいた。それはくなった庄が、が焼けるに文へ預けていた品だった。幸子は父の計を売れば、往復の運賃になるとったのだ。
文は計を取りげなかった。ただ、掌へ乗せて見せた。
「これを売ったって、向こうのの困り事はなくならない。お父さんの形見だけを失うことになるんだよ」
幸子は初めて、言い返さなかった。
「だったらお母さん、どうしては約束をするんだろう」
文は計の止まった針を見つめた。答えを急ぐのをやめた。