みかん小説
本棚

"磨かなかった靴" 第4話

働ける齢

常夫は仕事のを隠したことを、なかなか認めなかった。健太がを差しすと「落ちてたんだ」と言ったが、信吉が横から「誰にもらった」と尋ねると、ようやく「寺岡っておじさん」と答えた。寺岡は駅で仕事を探す子どもに、寝る所と飯があるを紹介すると声をかけていた。常夫は字が苦で、の細かいところまでは読めなかったという。

「いくつだと聞かれた?」

「って言えって。さいのはまれつきだって言えばいいんだってさ」

歳の常夫は無邪気にそう言い、し誇らしそうに胸を張った。信吉は顔をで覆った。「って言ったら働かせてもいいことになるとってんのか。の言うままに名をくな」。常夫はすねた。「でも、ここだって働かなきゃえないじゃないか」。誰もすぐには言葉を返せなかった。健太たちの商いも、が決めた仕組みのにあることは、皆うすうすっていた。

翌、信吉と健太は紹介の寺岡を探した。架のさな事務所には、割れたガラスの代わりに板が打ちつけられていた。寺岡はで、よく入れした髭をやしていた。「預け先のない子に仕事を世話して何が悪い。おたちより余程役につ」と笑い、帳面をいた。面にはき先の町、事代、旅費が細かくかれていたが、賃をいつ受け取れるかは曖昧だった。

広告

「常夫はです。じゃありません」と信吉が言うと、寺岡はわざとらしく驚いた。「本がだと申告した。俺はを測ってを決める役じゃない」。健太は宗男の名をした。寺岡は瞬だけを止めたものの、「あの子は途で逃げたからが残らなかった。世話した方が損したくらいだ」と答えた。

健太が兄のことを尋ねると、寺岡は帳面を閉じた。「佐伯俊? らんな」。その名をにするの速さで、健太は嘘だとじた。だが問い詰めようとすると、信吉が腕をつかんだ。相はで、ここは相の事務所だった。「俺たちには、その子を連れてくつもりがあるのかないのかだけ教えてください」。寺岡は肩をすくめた。「契約なら本が来なくてもいい。それで話は終わりだ」

へると、信吉はきく息をついた。「ああいう男は、言い負かしても何も変わらねえ」。健太はを尖らせた。「兄ちゃんのことだって聞いてない」。信吉はち止まった。「おがるのは分かる。だが、常夫を取られない方が先だろう」。健太はをげた。自分にとって兄は世界での族だが、常夫にも、ここにいる仲しか頼る者がいないのだ。

そのの夕方、駅員の塚本が歩いているところを呼び止めた。信吉が商売の所について相談すると、塚本は「駅の構内ではすぐに許できない」

広告

と繰り返した。それでもくの復興で空き区画を管理しているを紹介してくれた。「いきなり置くと追われる。と緒にちゃんと話をしなさい」。塚本は健太たちを見て、「そのために頼めるはいるか」と付け加えた。

頼れる。は顔を見わせた。焼け跡の部へ寝に戻ることを許してくれていた炭の寡婦、お志乃なら、話を聞いてくれるかもしれない。炭は戦ほとんど商品が入らず、今は荷置きとして細々と使われている。彼らは々、掃除や漏りを直す伝いをしていた。お志乃が実の子のように世話をしているわけではないが、追いさずにくれること自体がありがたかった。

帰ると、利夫が常夫に縄の結び方を教えていた。健太が事を話すと、利夫は「寺岡のは捨てろ」と言った。常夫は渋々をにくべた。さな炎が文字を丸めていくのを見ながら、健太は自分が宗男からもらった別のを確かめた。紹介の事務所へったことで、兄の所は分からなかったが、危険がどうづいてくるのかはし分かった。

ところが翌朝、寺岡の使いだという男が炭のへ来た。には名を並べたがあり、常夫だけでなく利夫と健太の名も載っていた。「来週の発について、確認に来ました」。お志乃が「この子らは私ので働いているんです」

と庇うと、男はを見せた。「もう保護者の名までいてありますよ」。健太はそれを覗き込み、目を見張った。保護者欄の文字は、見覚えのある兄の名だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: