みかん小説
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"磨かなかった靴" 第2話

札の向こうの朝

翌朝、誰よりく駅へ着いた健太は、いつもの所にい線が引かれているのを見た。荷が通る幅を確保するための線だと塚本は説した。今まで磨き台を置いていた辺りには、鉄の荷台と箱が積まれ、たちが座る所はなくなっていた。計画はからんでいたのかもしれない。しかし篠田に逆らった翌に追いされたことが、偶然だと信じられる者はいなかった。

信吉はを連れて通りの向こうへ移った。駅の正面は客がいが、そこで商いをしてきたたちの縄張りでもある。たちが荷を置くと、煙売りの男が寄って来て「誰に断った」と言った。信吉がくをげ、邪魔をしない所を教えてもらったころには、いつもなら最初のを磨き終えている刻だった。

昼までに稼げたのはわせて円。塩を振った芋を分けうにも細い。最の歳、常夫は空になった磨き缶を振り、「昨の所なら、もっと客が来たのにな」と呟いた。健太は返事ができなかった。彼が謝ると、信吉はかえって苛つ。「謝ったら腹が膨れるのか。それよりをかせ」。午は客の靴を見つめるたび、健太には革の縫い目が妙にきく見えた。

帰り、健太は篠田の卸のでち止まった。先には砂糖の空袋や古物の箱が並び、その奥で数の若い男が荷をかしていた。

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兄がどこかで働いているとすれば、こんな所ではないかとった。だが扉からてきた員に声をかけられるに、利夫がろから袖を引いた。「こっちに来い」。

「何でいつも止めるんだ」

「余計なことを聞いたら、皆に仕事がなくなる」

「もうなくなったじゃないか」

利夫はをつぐんだ。健太がなおも詰め寄ると、彼は古い塀のへ引っ張っていった。「あの靴は、篠田がから持っていたんじゃない。の、誰かがへ持ち込んだんだ」。健太は息を止めた。「誰が」。利夫は答えかけて、が通り過ぎるのを待った。「らない。顔をちゃんとは見てない。ただ、を引きずっていた」

靴を持ち込んだ男は代を受け取らず、あるの事代として預けたという。利夫はくの作業で伝いをしていたため、そのに居わせた。篠田は箱から靴を取りし、「こんなぼろに値がつくか」と笑った。だが、革を直させて自分で履き始めた。の革のが違うのは、だけ別の靴から揃えたかららしい。

「どんなの事代だ」。健太が聞くと、利夫は首を横に振った。「らないと言っただろ」。その言い方には、らない者の戸惑いより、っている者のりが滲んでいた。健太はこれ以追わず、帰り際に「教えてくれて、ありがとう」と言った。利夫はますます顔を曇らせた。

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空き部に戻ると、の信吉がべ物の割り振りをしていた。壁際に並ぶの椀のうち、健太の分には芋がひとかけく入っていた。「お、今はってねえだろ」。信吉がぶっきらぼうに言う。健太は芋を常夫の椀へ戻した。「皆、ってない」。笑いが起こったが、すぐに静まった。

夜更け、健太は兄と別れたのことをいした。で野駅の混雑のを歩いていた、俊は荷を運ぶ仕事を紹介してくれる男と話すため、健太に「この柱のそばをくな」と言った。汽笛と叫び声がなるうち、押し寄せた波に健太は柱から引きされた。戻った、兄の姿はなかった。その、誰に尋ねても兄がどこへったか分からなかった。

信吉が隣で寝返りを打った。「まだ起きてんのか」。健太は声で聞いた。「兄ちゃんが、きてるとうか」。しばらくがあり、「分からねえ」と信吉が答えた。「だが、の靴を見つけたくらいでんだことにもきてることにもできねえ。掛かりは掛かりだ」。健太はその言葉を何度も考えた。からは、自分だけでに聞きにかない。何をりたいかをにき、誰の暮らしに迷惑が及ぶかを考えようと決めた。

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