"昭和21年、米を没収された母が引き返した理由" 第12話
箱を分ける
に入ると、朝のは指先が痛むほどたくなった。千代は洗面器にを入れるのを嫌がり、悟が先に顔を洗って見せると、ようやく真似をした。子は弟妹へ学の帰りに覚えたを教えた。澄子は台所の釜からつ湯気を見ながら、こんなさな朝が続くようにと願った。のでは、まだ赤井運送の事件の調べが続いていた。
千鳥母子寮へ戻せると確認された箱について、いがけない問題が持ちがった。箱の部は寮へ直接届ける品ではなく、くの診療所で母子の栄養状態を見ながら配るための品だったのである。千鳥母子寮の荷札が貼られていても、すぐ全部を寮の台所へ運べるわけではなかった。片桐はそれを聞くと、「取り戻せたのに、また置いたままになるんですか」と肩を落とした。
田は、運送の途で貼り替えられた荷札と、元の発送先を比べていると説した。何かも失われていた品物を慌てて配れば、必な所へ渡らなくなる。澄子はその理屈を理解した。それでも母子寮で待つ々が、あと何待てばよいのかをりたかった。
片桐は施設の女性たちを集め、必なものをきすことにした。赤ん坊の乳を最優先する、晒し布のりない、乳に混ぜるべ物が必な。
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全員が同じものを同じ量もらえば公平とは限らない。澄子も伝ったが、「うちは困ってます」と申しるをどう並べたらよいのか、最初は分からなかった。
「私の子は、病院へ運ばれました」と里枝が言った。「乳が戻ってきても、今は診療所の先から決められた物しかませられません」
「なら、里枝さんの分は回しでええの?」と別の母親が尋ねる。
「回しにしてほしいと言ってるんやない。今必なへ先に渡せたらとうだけ」
言葉が尖り、部が静まり返った。母親たちは誰も悪くなかった。必なものがりない、順番をつけられるだけで、自分の子がろへ押しやられた気持ちになるのだ。澄子はあのの列をいした。自分には子どもがいるから返してほしい、と警察官にをげた。その、同じ内には、自分よりくの子を抱える女も、で暮らす老もいた。誰の空腹を先に量れるわけでもなかった。
片桐はさな黒板を持ってきた。「りない物を、できるだけ正確にきましょう。分かる範囲で、なぜその順にしたかも残します」。母親たちは顔を見わせ、しずつ話し始めた。字のけないの話は隣のが代わりにいた。声のきなが先に受け取るのではない、ということを、何度も確かめながら決めた。
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そこへ、丹波の組からの農が訪ねてきた。樋造が荷扱いの仕事かられ、組の取引をつずつ確かめているという。話しに来たのは峰フサという配の農婦と、若い農の男だった。は母子寮のでをげた。「うちの組からた荷が、別の所へ回されていたことを、ようやく確かめられました」
片桐はをへ招き、受領をめぐる問題を話した。峰は持参した荷の控えをし、「うちでは、最初に預けた数までは分かります。そこから先の運びは、運送に任せていました」と言った。組にも調べるべきことがい。何をどれだけしたか、誰が受け取り、誰が引き渡したか。つつ確かめる作業に、農の々もを取られているという。
「これから、荷を送るのをやめるんですか」と里枝が尋ねた。峰は困った顔をした。「今のままでは、うちのらも怖がっております。しても届かんのやったら、どうすればええのかと」。片桐は言葉に詰まった。助けてほしい相が、荷を失った側でもあることを、改めていらされた。
澄子は農婦に尋ねた。「送り続けてもらうには、何を変えたらええんでしょう」。峰はすぐに答えなかった。若い男がをく。「荷を預けたに、誰のへ渡したかをもうが見とく。届け先でも、受け取った箱を緒に数えてもらう。
それなら、途で違うをされても確かめられる」。
その案は、特別な仕組みではなかった。を惜しまず、相と緒に箱を数える。だが今までの輸送では、そのをいちばん先に省いていたのだ。清もそこへ顔をし、「荷を受け取る、俺も数だけでなく品名を見ます」と言った。片桐は「それなら、こちらも届いたそのでを確かめます」と答えた。
峰はその、澄子ときりになった、「絹さんのこと、聞いてますか」と尋ねた。澄子は首を振った。絹はの々ので、孝男が具を持ちしたことと、それをらない子どもに運ばせたことを自分から話したという。では厳しい見もており、組の仕事を続けられるかは分からない。「自分の息子を守りたいばっかりに、あんたのまで巻き込んだ。あのも、それだけは隠せんかったようです」
澄子は峰の顔を見つめた。絹の言い分を、今すぐ聞きたいとはわなかった。悟のそうな顔、空になった呂敷、清が失った仕事。どれも、謝罪のひと言で消えるものではない。けれどの々へ事実を話したことだけは、絹が自分のしたことに向きおうとしている証しだとえた。
週、箱のうち寮へ渡せるものが、続きを経て運ばれてきた。乳が入った箱には、田のち会いで確認された印が残っていた。
片桐は荷を置いたまま皆を集め、箱の数を声にして読みげた。母親たちも順にを見た。「箱です。りない分は、まだ調べていただいています」。当たりの報告だったが、誰もその言葉を急がせなかった。
里枝は病院の医師から指示された品を受け取り、別の母親は晒し布を両で事に持った。全員へ分な量がき渡ったわけではない。何も受け取らないもいた。澄子はその様子を見て、嬉しいとも悔しいとも言い切れなかった。箱が届いたからこそ、まだ届かないもののさがはっきりしたのだ。
帰り、片桐が澄子を呼び止めた。「来から、荷の受け取りと仕分けを伝っていただけませんか。しですが、仕事としてお礼をせます」。澄子は驚いた。がりず、ただで働いてくれるを探しているのだとっていたからだ。「を助ける仕事でも、働くの暮らしがたなくてはいけません」と片桐は言った。澄子はすぐには返事をしなかった。自分のの仕事と、子どもたちの世話を、もう度族と相談しなければならない。
その晩、澄子は子と清へ話した。週に何、何働くか。千代は誰が迎え、悟の帰宅の事はどうするか。清は今の修理仕事を続けたい。子は学を休みたくない。相談はすぐにはまとまらなかったが、澄子がで「私が全部やる」
と言うことは、もうなかった。
最に子が提案した。「お母ちゃんが寮へくは、私が帰ってきてから夕飯つくる。でも、夜遅くまで内職はせえへん」。悟は「僕が千代を迎えにくも決めよう」と言った。清は「休みのは俺が炊事する」と続けた。澄子はを見回し、ようやく「それでお願いする」と言えた。台所の米びつはまだ軽かったが、事のことをで考えなくてよい夜が戻りつつあった。