"昭和21年、米を没収された母が引き返した理由" 第10話
の倉庫
の末、が続いた。澄子のでは、窓枠に詰めた聞が湿って剥がれ、畳の端まで気が入ってきた。清は仕事先から古い板をもらい、窓のへ当てていた。朝になると根を叩く音がまり、子は千代の着をしでも乾かそうと輪のそばへ吊るした。には米がなくても、乾いた布は必だった。
昼に田がやってきた。輪と赤井の関係する倉庫へ、別の警察官が調べに入るという。そこへ孝男が入りしていたことは、倉庫の番から確認が取れていた。「森川さんには、の荷扱いの経をもう度確かめてほしい」と田は言った。清は仕事の帰りに警察へ寄るよう頼まれ、澄子は夕方、千鳥母子寮の片桐にらせを伝える役目を引き受けた。
のを歩きながら、澄子は絹が渡したの米をいした。あの、着物と交換したのは族のためだった。警察へ引き返したのは、自分たちがらない罪に巻き込まれるのが怖かったからでもある。そこから先の来事は、何つ予どおりにならなかった。米は戻らず、夫の仕事もなくなった。ならばこの先何かつでも、自分で確かめたと言えるものを残したかった。
片桐は、寮の奥で赤ん坊へ湯ましをませていた。澄子がらせると、彼女はすぐにの女性へ声をかけ、今の受け取り予定を確かめた。
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先の荷は箱そろったように見えたが、品名の変更やの違いがあって、届けられるはずの乳がなおりなかった。寮の女性たちは箱ずつけた記録を残し、空いた箱さえ捨てずに置いていた。
「こんなこと、はしていませんでした」と片桐が言う。「届けばありがたいと、そればかり考えていたんです」
「受け取った分を確かめるだけなら、誰かに悪いことをしてるわけやない」
「そうですね。でも、最初は相に失礼だとうてました」
澄子はうなずいた。買いしのも、絹が米を量るつきを疑わなかった。あのに箱を見せてもらえばよかったのかもしれない。ただ、それはから分かったことだった。昨の自分を罰するように考え続けるより、今は確かめるしかなかった。
午、田からの警察官が寮へ来た。赤井の倉庫にあった荷札の印と、押収した印箱の形が致することは確かめられたという。倉庫からは輪の取引先の控えも見つかり、荷を移したの記録が残っていた。ただし、類だけで全部の品物を見つけられるわけではない。すでにへ売られたものもあれば、誰が持ちしたか分からないものもある。警察官はその説を繰り返した。
夕方、清が寮へ姿を現した。で髪が濡れ、袖からが滴っている。
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彼は田に連れられ、の荷を積み替えた倉庫の所を示してきたという。「あのはつの戸しかいてへんかった。けど裏にもう枚、入りがあるのを見つけた」と言った。その裏から、別の荷が何度もていた能性があった。
「清さん、怖なかったん」と澄子が尋ねる。
「怖かった。赤井に顔を見られたら何されるか分からん。でも、どこまで俺が見たかを言わんかったら、ずっと同じで荷がく」
が暮れる、は帰ろうとした。ところが寮のくの通りで、荷を引く男たちがに通り過ぎるのを見た。うちが、片方の輪を持ちげるようにして畳の段差を越えた。その男の肩越しに、本の稲穂の印が押された箱が見えた。清はを止めたが、追いかけなかった。「田さんへらせよう」。はくので話を借り、見たと荷の数だけを伝えた。
しばらくすると警察官が現れた。澄子たちはの反対側で待つように言われた。荷は倉庫のある方角へ曲がり、男たちはよけの布をかけたまま荷をろしていた。田が別の警察官と流し、運送に関わる類を示すよう求めると、男たちのが「何も悪いことしてへん」と声を荒らげた。澄子はくから様子を見るしかなかった。
やがて倉庫のへ警察官が入り、扉の隙から灯りが漏れた。
赤井の主も呼びされ、輪という男が緒に連れてこられた。声が何度か聞こえたが、音に遮られて言葉までは分からない。しばらくして田がへて、清へ確認した。「、荷を積み替えた台は、あれで違いないか」。清はしれた窓からを見て頷いた。
倉庫にはまだけられていない箱がつ残っていた。そのうち箱には千鳥母子寮への荷札が貼られ、別の箱にはからしい送り先のがねられていた。残る箱の印はく、読めなかった。田は封を記録し、事を調べるため品物を保全した。澄子は度、戻ってきた米袋を目のに置かれたような気持ちになったが、すぐにその考えを振り払った。これは自分の米ではない。寮で待っているたちの荷だった。
輪は「正式に買い取った品も混じっている」と主張した。赤井も「運送先の変更は組が認めた」と言い、樋造の名を挙げた。そこへ孝男が連れてこられた。倉庫の番が用した台で、孝男は自分がいつ、どの荷に封を付け直したかを示した。田はつずつ確認し、輪と赤井の言葉との違いをき留めていった。
澄子はい、その作業を見守った。誰かが突然本当のことを吐き、すべてが度に解決するような面は起きなかった。男たちは互いの名をし、都の悪いところを避け、またしいを示す。
孝男でさえ、どの荷が最終にどこへ売られたのかまではらなかった。が止みかけた頃、田がへ来て言った。「今はここまでです。調べは続きますが、なくとも箱のき先は確認できます」
清がほっと息を吐いた。澄子も膝が震えていることに気づいた。それでも帰りに最初に考えたのは、の朝、千代へ何をべさせようということだった。きな事件がいても、さなの鍋が満ちるわけではない。その当たりのことをいながら、は濡れた畳を歩いた。