みかん小説
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"昭和21年、米を没収された母が引き返した理由" 第9話

売られた乳

孝男が話した相は、駅の荷扱いを請け負う仲介の輪という男だった。戦から運送の仕事をしており、荷の積み替えにがりないだけからを集めていた。組は正規の貨物をしているつもりでも、途の運送と荷受けが結託すれば、受領印を付け替えて別のへ荷を回せる。孝男はその仕組みの部を伝ったと認めた。

「初めは、送り先が変わっただけやといました」と孝男は言った。「でも母子寮の荷をろしたに、赤井さんが俺に袋を渡して、誰にも言うなと。にはが入ってました」。田がの額を聞くと、孝男は俯いて答えた。は使ってしまった。の根を直すためだった。その根は、いまもが漏っているという。

澄子には、男を責める言葉がてこなかった。清も似たことを言ったからではない。孝男が犯したことをさくしたくなかったし、の修理を理由にすれば誰かの乳が消えることを許してしまうのかと考えたからだ。孝男は自分が関わった荷のき先を図に印し、警察へ渡した。輪の名をにしたことで、もうへ戻っても仕事はないだろうと分かっていた。

そのの夕方、澄子は田に頼まれ、町のの角へ同した。盗まれた物に似た乳が売られているらしいという。

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商いの女たちは、警察官の姿を見た途端、品物に布を掛けた。だが田はすべてを押収しようとはせず、納め元を聞いて回った。あるの女が、袋に分けて売っている乳を差しした。「私は問から買うたんです。盗品とは聞いてへん」と言う声は震えていた。

の女、増田百は幼い息子を背負い、毎朝しずつ商売をしていた。田が仕入れ先を尋ねると、百はしばらく迷ってから、赤井運送の紹介で買ったと認めた。「いからびついたんと違います。ほかよりいくらいやった。それでも買うがおるから」。彼女のには、細かないが爪のまで入っていた。

「そのは、千鳥母子寮に届けられるはずやったんです」と澄子が言うと、百の顔から血の気が引いた。「そんなこと、りませんでした」。百は背の子を抱き直し、「もう売りません」と言った。しかし仕入れに払ったは戻らず、計はすぐに苦しくなる。澄子はここでも、盗んだと売った、買ったが同じ責任を負うわけではないことを実した。

田は乳の入った袋を預かり、百には売るのを止めるよう求めた。澄子は百が翌何を売ればよいのか尋ねた。「野菜をし」。答えながら百は苦笑した。「あの品を買わなかったら、ほかの物を仕入れられたんですけどね」

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。隣には、乳を買うつもりで並んでいた母親がいた。事を聞いたは、商品を戻してもらえるかどうか配そうに尋ねた。

澄子は帰り、田へ言った。「調べてください。でも、買うたまで悪いやと決めつけんといてください」。田は「調べは区別してする」と答えた。簡単な返事に聞こえたが、その区別を実際につけるには、どれだけの話を聞かねばならないのか像できなかった。の女の顔と、母子寮の痩せた赤ん坊の顔が、交互に浮かんだ。

帰宅すると、清が集めた薪の切れ端を刻んでいた。仕事のがあったという。の伝いだったが、無理にい物を持たず、具の修理と片の片づけを頼まれたらしい。当はない。それでも澄子は、夫が自分からしい仕事のことを説してくれたのが嬉しかった。清は「今の所にく置いてもらえるかは分からん」と付けした。

子が鍋に麦を入れながら言った。「今、学で先に呼ばれた。何か困ってることはないか、って」。澄子は胸が詰まったが、娘は続けた。「私、袋の内職をしてるから、授業眠うなることがあるって話した。先が、無理せんように言うてくれた」。子が初めてののへ助けを求めたことに、澄子は堵した。何でも母で抱えればよいという考えが、しずつ崩れていた。

その夜、悟が澄子の枕元へ来た。「僕、のおばちゃんが嫌いや」と言う。澄子は「そうか」と答えた。「でも孝男さんは、悪いことしたって話してくれたんやろ。おばちゃんも話した。嫌いなままでええんかな」。悟は自分で答えを探すように、布団の端を指で触っていた。澄子は「今すぐ許さなくてもええ。おが何をじたか、事にしとき」と言った。

翌朝、田からしいらせが来た。輪の関係する倉庫を調べると、乳の空箱だけが積みになっていたという。はすでにほとんどへ流れていた。だが同に、まだけられていない荷物が数箱、別の所に残っていることも分かった。それは来週、さらにくへ運びされる予定だった。田は所をかさなかったが、澄子たち夫婦に連絡が取れるようにしてほしいと頼んだ。

澄子は応じた。ただし、悟を連れて駅へくのはもうやめようと決めた。息子は分に怖いいをした。これから先に誰が責任を負うかは、が決める番だった。

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