"昭和21年、米を没収された母が引き返した理由" 第1話
米のにあるもの
「その米は、どこでに入れた」
男の声に、森川澄子は膝のの呂敷を抱え直した。昭、阪へ向かう列は買いし帰りの々でいっぱいだった。網棚には芋を詰めた籠がなり、もとには野菜の葉が散っている。窓をけてものと湿った藁の匂いは抜けず、歳の息子、悟は母の袖をつかんでっていた。
「丹波のりいから、着物と取り替えてもらいました」
澄子が答えると、制の警察官は呂敷をくように言った。からてきたのは、古い拭いに包んだほどの米だった。では歳の子と歳の千代が待っている。清も、昨は朝から荷仕事にたのに、夕方には空の弁当箱だけを持ち帰った。あれば何もべられるわけではない。それでも麦や芋に混ぜれば、子どもたちの茶碗にい粒を浮かべられた。
「米穀通帳は」
「これで買ったわけではありません。でも、うちにはもう……」
「事は聞く。まずこちらへしなさい」
悟が歩へた。「お巡りさん、それ、お母ちゃんの着物と替えたんやで」。警察官はの顔を見たが、米を包み直すを止めなかった。隣にっていた別の警察官が、袋と澄子の名を帳面につける。する駅で調べると告げられた、澄子は悟の肩を抱いた。
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力ずくで取り戻そうとすれば、息子まで巻き込む。では分かっていても、窓から見える畑のい緑が、ひどくいものにえた。
宝塚でろされ、駅の角でさらに聞き取りを受けた。澄子は着物を渡したの名を答え、帰り先の所をいた。米はそので返されず、調べが済むまで預かると言われた。受け取った切れには、とかれている。帰途の列代を残すため、彼女は財布から落ちた銭を枚ずつ数えた。悟はそのじゅう、袋を置かれた机から目をさなかった。
「母ちゃん、今晩どうするん」
「帰ってから考えよう」
「千代、いご飯やって待ってるで」
その言葉で、澄子の喉が詰まった。朝、をるに自分が約束したのだ。さな千代は両で茶碗の形をつくり、「盛りじゃなくてええから」と笑っていた。そんな控えめな願いさえ守れない母親になったことが悔しかった。
次の駅まで乗っている、悟は眠らずに黙っていた。ところが列が寺にづいた、に母を見げた。「あのさい箱も持っていかれたんやな」。澄子は胸の奥で何かがくのをじた。丹波の農をる、の女主が米を包みながら、さな属の箱をへ押し込んだのを見ていたのだ。
「何や、あれは」
「分からへん。おばちゃんが、気をつけて持ってきなさい言うて」
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「いつ言われたん」
「母ちゃんが井戸でぇ洗うてる。箱はけたらあかん、駅まで持ってってくれたらええって」
澄子は急に背がたくなった。農の絹は、自分に何も話していない。悟に渡したということは、母親には断られると考えたのだろうか。宝塚の机で警察官が米袋をけた、い粒のに瞬だけ見えた角ばったのものをいす。蓋には本の稲穂を丸で囲んだ印がついていた。
その印は、丹波の集荷の戸にも焼き付けられていた。絹ので茶をんだ、所の男が訪ねてきて「まだあの印箱は見つからんのか」と尋ねたこともいした。絹はその、ひどくい調で男を帰していた。
列がまると、澄子は悟のを引いてりた。阪へはまだ数駅ある。米もないのにここでりれば、ただ帰りが遅くなるだけだ。それでも彼女は反対の方向へ歩きした。駅員から宝塚までのを聞き、息子の歩幅にわせて坂を戻った。
「お米、返してもらうん?」と悟が聞く。
「それも聞く。でも先に、箱のことを話さなあかん」
「僕が預かったんや。僕が悪いん?」
「勝にの荷物を持たされたんや。おのせいやない」
夕方、宝塚駅のくの交番にたどり着いた。澄子は机へ押収の控えを置き、米を調べた警察官を呼んでほしいと頼んだ。
てきた若い巡査は、また米の返還を求めに来たとったらしい。だが澄子が「米のに、さい鉄の箱があったはずです」と言うと、その顔つきが変わった。
「箱のことを、なぜっているんです」
澄子は答えられなかった。彼女が度も触れていない箱を、巡査がすでにっていたからである。