"義父の古希祝いで母娘の席が消えた――予約名義は私" 第9話
面会の審判
季節は巡り、桜の蕾が膨らみ始めた初の午。
私は駅のホテルの喫茶で、半ぶりに啓介と向かいっていた。
テーブルの端には、の庭支援センターから派遣された、面会交流の専女性スタッフが静かに控えている。今は、が自らの志で「パパと度だけ会う」と決めただった。
半ぶりの啓介は、以のようなだらしなく太った姿ではなく、見違えるほど痩せこけていた。無精髭は綺麗に剃られ、な紺のスーツを着て、背筋を伸ばして座っていた。
義父の哲夫から聞いていた。啓介はあの事件の、自ら療内科のカウンセリングに通い、なぜ自分が親の顔を窺い、争いを避けるためにに犠牲をいてしまうのか、その精神な歪みと向きい続けているという。実の母や妹とも距を置き、暮らしのアパートで活をて直していると聞いていた。
ガラガラ、と喫茶の引き戸がき、由美子に付き添われたが入ってきた。
学の制を着たは、この半でし背が伸び、顔つきもすっかりびていた。
啓介は弾かれたようにちがったが、駆け寄ることはせず、そのに直したまま、腰を度に折ってくをげた。
「ちゃん……来てくれて、ありがとう」
は無言のまま私の隣の席に座り、運ばれてきたアイスティーのグラスを両で包み込んだ。
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苦しい沈黙が流れる。啓介は言い訳をにすることなく、ただがをくのをじっと待っていた。
やがて、カランと氷が溶ける音が響いた、がゆっくりと顔をげた。
「……パパ」
「うん」
の澄んだ瞳が、真っ直ぐに元父親の顔を捉えた。
「あの、ホテルので……ママが『予約名義は私です』って言わなかったら、パパはどうするつもりだったの?」
啓介の肩が、ビクリとねがった。
「もしママが何も言わずに、泣いて諦めて帰ろうとしたら……パパは、私を守るために、何か言ってくれた?」
それは、あのからずっと、の胸の奥くに突き刺さっていた、最も痛ましい棘だった。
父親は、本当に自分をしてくれていたのか。それとも、最初から都のいい形として切り捨てるつもりだったのか。
啓介は線を落とし、テーブルので握りしめた拳を震わせた。
以の彼なら、ここで障りの良い嘘をついただろう。『で親父に話すつもりだった』『タイミングを見て言い返そうとっていた』と。
しかし、今の啓介は、顔をげ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、逃げることなく真実を絞りした。
「……言えなかったとう」
の体が、微かに揺れた。
「母さんが怖くて……親戚の目が怖くて……俺は、最まで黙って、おたちが傷つくのを見過ごしていたとう。……本当に、ごめんなさい」
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自分の卑怯さとさを、欠片の誤魔化しもなく認めた告だった。
のきな瞳から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、制のスカートを濡らした。
「……嫌い」
は泣きながら、掠れた声で言った。
「その答え、本当に嫌い」
「うん……父さんも、自分が嫌いだ」
啓介もまた、両で顔を覆って号泣した。
はの甲で乱暴に涙を拭い、真っ赤になった目で啓介を見据えた。
「でも……嘘をつかれるよりは、ずっと良かった」
その言葉に、啓介は息を呑んだ。
「まだ許さないよ。パパのこと、許せない。……でも、今、本当のことを言ってくれてありがとう」
はちがり、私に向かって「ママ、帰ろう」と静かに告げた。
啓介はちがり、っていくのろ姿に向かって、もう度、くくをげ続けた。
何かが劇に修復したわけではない。壊れた族の絆が元通りになったわけでもない。
しかし、嘘と欺瞞で塗り固められていた偽りの親子関係は、この、完全に終わりを告げたのだ。