"借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算" 第5話
封印された茶箱の記録
告別式の翌週、私は休暇を消化するため、で旅館に残り、帳簿や遺品の理を始めた。 宿は父がくなった翌朝も、普段通りに営業を続けていた。 「旦さんならね、『自分の葬式で客を断るな』ってるに決まってますから」 料理の省吾さんが、目を真っ赤に腫らしながら包丁を研ぎ、照子さんが涙を拭いながら廊に雑巾をかけていた。
その週の曜、父の顧問を務めていた元の諏訪の税理士・片岡先(歳)から事務所へ呼びされた。 応接の机のに置かれた枚の類。 そこに印字されていた数字を見て、私は呼吸を奪われた。
【借入残計:298,000,000円】
「……億、ですか?」 「正確には億千百万円です」片岡税理士は沈痛な面持ちで鏡をした。 「の全国な宿泊客激減期に借り入れた運転資。そしての集豪で本館の階とボイラーが没した際の復旧費用。さらに、耐震補事と、流された呂を垣から再建した費用千百万円……。これらすべてが、お父様個名義の債務です」
個事業主である父の借は、相続である私にそのまま引き継がれる。 「真帆さん、相続放棄というがあります。くなられたことをったからヶ以内に庭裁判所に申してれば、借を背負う必はありません。
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ただし、放棄すれば宿も、も、源泉の権利も、すべて放さなければなりません」
を抱えて宿へ戻った私は、父の遺品を探すため、裏庭にある古い蔵の扉をけた。 埃のう棚の最段、けられた形跡のない製の茶箱。 そのい蓋をけた瞬、私の目にび込んできたのは、数冊におよぶ古い学ノートだった。 表には、父の無骨な跡で『宿誌』と記されている。
豪の被害を受けた、のノート。 ページをめくると、の欄に、震えるような文字でこうかれていた。 『。豪。沢が氾濫。の集落のが孤。本館階を放し、全員を避難させる。宿泊代は円も取らん』 『。裏の砂崩れで呂が岩ごと流失。勇気の好きな平らな岩も消えた』
そして、そのののページをいた、私の臓が凍りついた。
『。京から峰リゾートの用買収担当・篠田という男が訪ねてきた。億千万円で宿と源泉を丸ごと売り渡せと求される』 『。拓也君に確認の話を入れる。拓也君は「売れば千万円は元に残る。お父さんも潮だ、売却はいずれ真帆の遺産になる」とく売却を迫ってきた。わしの体のことは、言も配せんかった』
血の気が引いた。 のあの豪の直、拓也は私のらないところで、すでにリゾート発会社を父に差し向け、宿を売り払って遺産をに入れようと画策していたのだ。
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だが、私の目を真に釘付けにし、背筋を戦慄させたのは、そのページのさらに――赤インクで殴りきされた、信じがたい「密約」のメモだった。
『拓也君は言った。「真帆には内緒でめましょう。あいつはが固い。売却のうち千万円を私の裏座へ回してくれれば、私が責任を持って真帆に相続放棄の続きを取らせますから」と。……この男に、が娘と孫を任せることはできん』
「……っ!?」 喉の奥から、引き裂かれるような鳴が漏れそうになった。 夫は、から父の宿を売りばそうとし、あまつさえ妻を騙して売却を着する密約まで持ちかけていたのだ。
その、居の方から、ガタガタと荷物を引きずる荒々しい物音と、拓也の苛った声が響いてきた。 「おい真帆! どこにいるんだ! く京へ戻る準備をしろ!」
私は震えるでそのノートを胸に抱き締め、蔵の暗ので、静かにちがった。 獄の幕が、今まさにがろうとしていた。