みかん小説
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"借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算" 第1話

えた湯呑みと億円の遺産

信州の険しい並みが夕に沈み、古びた造旅館の帳には、のえ切った隙が忍び寄っていた。 父が営んでいた温泉旅館『の宿』の居。畳は擦り切れ、押にかけられた古い柱計が、苦しい振り子の音をカチコチと刻んでいる。 父・島原郎が歳で急逝してから、まだわずか週しか経っていなかった。

「真帆、貧乏になるに婚してくれ」

座卓を挟んで向かいっていた夫・拓也(歳)が、めきった緑茶の湯呑みを指先で弄びながら、平然とそう言い放った。私の顔を度も見ようともせず、線は元の座卓に落とされたままだ。 私――真帆(歳)は、を疑った。

「……え? 拓也さん、今なんて言ったの?」 「聞こえなかったのか? おがこのボロ宿を継ぐって言い張るなら、俺はもう付きえない。俺は京で、普通に真っ当な暮らしがしたいんだよ」

拓也は品メーカーの営業管理課を務める男だ。声を荒げることはめったにないが、庭内のあらゆる来事を「損得勘定」という徹な物差しでしか測れないだった。 昨、父の顧問税理士から突きつけられた負債額――億千百万円。ほぼ億円に達する巨額の借。 その数字をった途端、拓也が最初にに移したのは、最の父をくして憔悴しきっている妻への慰めでも、今の活の相談でもなく、己のを守るための損切り、すなわち「婚」

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だった。

座卓の端には、拓也が昨晩から夜まで肌さず握りしめていたスマートフォンが、画面を伏せて置かれていた。暗ので彼が何を検索していたのか、私は々察していた。配偶者の借、相続放棄、自己破産、財産分与――。 妻のしみなど、この男のの勘定には文字も記されていなかったのだ。

の結婚活。 慎ましいながらも、それなりに平穏な庭を築いてきたつもりだった。 私は京の堅医療用品卸会社で経理・総務としてフルタイムで働き、計を支えてきた。夫が細かく遣いを制限し、私の実への帰省費用すら削ろうとしたも、「おで苦労したくないから」という彼の言い分を信じ、をねてきた。 だが、そのの歳が、たった億円という数字のに、屑のように破り捨てられようとしていた。

あまりの虚無に声もず、膝ので握りしめた私の拳がわななく。 そのだった。

「俺は、母さんと緒にくよ」

私の隣で、葬儀のずっと唇を噛み締めて黙り込んでいた息子の勇気(歳)が、スッと顔をげた。 、来には学受験を控えた息子。 その瞳には、点の曇りも、迷いもなかった。凛とした力い声が、静まり返った居にまっすぐに響き渡った。

「……は?」 拓也のが、の抜けたように半きのまま固まった。

息子は当然、学歴や活準を考え、裕福な父親と共に京に残るものだと信じて疑っていなかった男の、醜い揺がそこにあった。

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