"庭付き新居に押しかける長男夫婦、引越し当日に絶句" 第5話
「父さんの遺産は諦めるよ。父さんのは、な」
夫の葬儀の、琢磨夫婦と会うのは久しぶりだった。
真理亜とのには義という息子がまれていたが、私たちとはほとんど交流がなかった。
それでも夫がくなったのだから、さすがにこのは静かに見送ってくれるだろう。
私はそうっていた。
甘かった。
葬儀を終えたあと、琢磨は私の隣に座るなり言った。
「これで母さんもぼっちだな」
そこにいた美が顔をげた。
「お兄ちゃん、今そんなこと言う?」
琢磨は肩をすくめた。
「事実だろ。父さんもいなくなったんだから、これからは俺たちに頼るしかないって話だよ」
真理亜も当然のように頷いた。
「そうですよ。お母さんももう若くないですからね。今更、昔みたいにで何でもできるとわない方がいいですよ」
夫を送ったばかりの所で言うことなのか。
私はしいというより、呆れていた。
さらに義は、美の娘である恵の髪を引っ張った。
「おの母さん、気だからおも気」
恵が泣きし、美が青ざめた。
「何するの!」
ところが琢磨は息子を叱るどころか、
「子供同士のことだろ。いちいち騒ぐなよ」
と笑った。
自分が幼かった頃と同じだった。
自分は特別。
自分の子も特別。
注する方が悪い。
私は何もの義父母の顔をいしていた。
広告
49の法まで終わった頃、親戚も帰り始めた。
琢磨夫婦だけがなぜか残った。
私は嫌な予がしていた。
案の定、琢磨は湯呑みを置くなりをいた。
「段落したし、遺産の話をしようか」
美の顔がくなった。
私は静かに答えた。
「あなたに渡すお父さんの遺産はありません」
琢磨はしばらくが分からないようだった。
「は?」
「あなたの分はないの」
「ふざけるなよ。俺は男だぞ」
「男だから何?」
「相続だろうが!」
「もちろん相続よ。でも、お父さんは、あなたがを建てるにかなりの額を援助したでしょう」
琢磨の顔から血の気が引いた。
夫は、将来の相続も考慮したで宅取得のための資を渡していた。
続きも適切にっている。
そのことを琢磨自がらないはずはない。
ただ、都よく記憶から消していただけだ。
「そんな昔のまで数えるのかよ」
「数えるも何も、お父さんとあなたので話したことでしょう」
美がさく息を吐いた。
「私はいいよ。お母さんが全部使えばいい。これからで暮らすんだから」
すると真理亜が驚くことを言った。
「じゃあ、美さんがらないなら、その分をうちにくださればいいんじゃないですか?」
部が静まり返った。
美は本当に言葉を失っていた。
琢磨は妻を止めるどころか、
「それいいな。どうせ美はいらないって言ってるんだろ?」
広告
と続けた。
その瞬、私は完全に吹っ切れた。
「帰りなさい」
「母さん」
「何度言えば分かるの。あなたに渡すものはありません。これ以お父さんを送る所でおの話をするなら、度と来なくていい」
私の声がった以にかったのか、はようやくちがった。
玄関へ向かう途、琢磨が振り返った。
「まあいいよ。父さんの遺産は諦める」
そして、元だけで笑った。
「父さんのは、な」
美がすぐ反応した。
「それ、どういう?」
「おには関係ない」
「お兄ちゃん」
「じゃあな。また来るよ」
扉が閉まったあとも、私はその言葉を何度もい返していた。
父さんのは、諦める。
では何を諦めないつもりなのか。
答えはつしかない。
私がんだあとに残す財産。
。
貯。
夫から受け継いだもの。
これから私が持つもの全部。
琢磨はすでに、それらを自分のものとして数え始めている。
「お母さん」
美が隣へ来た。
「今の聞いたよね」
「ええ」
「何か考えた方がいい」
「そうね」
私は夫の遺を見た。
あなたならどうする?
そう問いかけるように。
その数週、偶然にもつの話がい込んだ。
私たちが暮らしたこの帯に、規模な再発計画が持ちがったのだ。
企業からとを売ってほしいという申しがあった。
夫とのいの。
同に、義父母との苦しい記憶や、琢磨が変わっていった記憶が染み込んだ。
私は迷った。
すると美が言った。
「売っちゃえば?」
その言が、私の背を押した。
ただし私は、単にを売って引っ越すだけでは終わらせなかった。
琢磨が次に何をするか。
もう分かっていたからだ。
だから私は、しいを軒ではなく――軒、用することにした。
軒は、私が本当に暮らす。
そしてもう軒は。
琢磨だけに見せるためのだった。