"「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実" 第8話
玄関の攻防と突きつけられた受理
の陽が差し込む玄関ホールに、張り詰めた沈黙が落ちた。
秀哉は自らの靴の先端を磨かれた理のたたきにトントンと打ち付け、苛ちを隠そうともせずに眉根を寄せた。その腕に絡みつく麻は、まるで勝利者として凱旋した女王のように顎をしゃくり、伊佐美の着古したカーディガンを骨に蔑むような線で見つめている。
「やっぱりそういうことだったのね、だってお……何を呑気なことを言ってるんだ?」
秀哉は嘲笑を浮かべ、スーツの内ポケットにを入れる仕をした。
「今さら被害者面をしたところで遅いんだよ。公正証に記載した通り、養育費も解決の百万円も、僕の座から送する続きは済ませてある。お互いに婚にし、慰謝料も切請求しないと誓約したはずだ。君にはもう何の文句も言えないはずだが?」
「そうよぉ、おばさん」
麻が甘ったるく、だが棘のある甲い声をげた。真っ赤なマニキュアを施したい指先で、秀哉の肩を撫するように撫でる。
「秀哉さんから分すぎるほど切れをもらったんでしょ? 私たちはこれからこの広いで、宗太の学入学をお祝いして、しい具を揃えて幸せに暮らすの。あなたたちみたいな過の遺物は、さっさとその辺のボロアパートに引っ越してくれないと迷惑なんですけどぉ」
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歳の宗太は、たちの異様な空気をじ取ったのか、背負ったピカピカのランドセルを揺らしながら、おどおどと秀哉のにしがみついていた。
伊佐美はその幼い子供の姿に瞬だけ痛ましげな差しを向けたが、すぐに線を秀哉の顔へと戻した。そこに迷いは微もなかった。
「秀哉さん、あなたが言っている『お互いに慰謝料を請求しない』という公正証の文言についてだけど……あれはあくまで『性格の致による婚そのもの』に対する取り決めよ」
「はあ? 何を屁理屈をこねてるんだ」
「貞為による損害賠償請求権は、事実をったから、独して使できるのよ。婚の公正証とは法に完全に別個の請求権だわ。それに、あなたが主張していた『の別居による自然破綻』という提そのものが、完全な詐欺虚偽だった」
伊佐美は鞄から、相楽弁護士が作成した正式な通の写しを取りした。
「民法第百条に基づき、詐欺による協議条項の取り消しを求める続きをめています。単赴任にかこつけてもを囲い、隠し子を育てていたという決定な事実。これをっていたら、私が慰謝料の公正証にサインするはずがないでしょう? あなたと、そこにいる井麻さん、おそれぞれに対して、相の限である各百万円、計千万円の貞慰謝料を請求します」
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「い、千万円……!?」
麻の甲い声が裏返り、顔から急速に血の気が引いていった。
「ちょっと秀哉さん! 慰謝料は絶対に取られないように根回ししたって言ってたじゃない! 私、そんな払えないわよ!」
「落ち着け、麻! こんなハッタリに騙されるな!」
秀哉はりで顔を真っ赤に染めげ、唾をばしながら伊佐美に詰め寄った。
「ふざけた言いがかりをつけるな! おみたいな無職の専業主婦が、弁護士を雇えるわけがないだろう! 誰かの受け売りで喚いてるだけだ! いいからとっととサインした婚届を渡せ! 今に役所の窓へさなきゃならないんだ!」
伊佐美はややかに微笑み、胸元のポケットから枚の片を取りして、秀哉の先へと差しした。
「婚届なら、もう元にないわよ」
「……何?」
「今朝番で、区役所に提してきたわ。はい、これが婚届受理証」
秀哉はひったくるようにして片を奪い取った。公印が鮮に押されたその証には、確かに今朝の付で、秀哉と伊佐美の婚姻関係が法に解消された旨が記されていた。
「よし……! よし、これで成だ!」
秀哉は途端に堵の表を浮かべ、麻と顔を見わせて品に笑った。
「見ろよ麻、こいつ自分でしちまってやがる! 受理されたんなら僕たちの勝ちだ! これでれてだ! さあ伊佐美、もう君はのじゃない! このは僕の実だ! が法占拠するな、徹夜を連れて今すぐてけ!」
勝ち誇った秀哉の声が、ホールに霊した。
しかし、その言葉を待っていたかのように、伊佐美の唇から氷点の宣告が紡ぎされた。
「ていくのは、あなたたちよ」