みかん小説
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"「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断" 第4話

襖の向こうの囁きと、消えた自転

の終わりの曜。 蒸し暑い午の台所で、私は麦茶を煮し、粗を取るためにやかんをにつけていた。 居では、で遊びに来ていた義妹のひろみさんと義母が、たい麦茶をみながら世話に興じていた。 襖が半分ほどいており、の会話は台所につ私のへ、嫌でも筒抜けになっていた。

「……の子の制、来また買い替えなのよね。男の子は背が伸びるのがくて、本当におがかかるわ」 ひろみさんの愚痴に、義母が相槌を打つ。 「そうねえ、私学の制や指定品はいものねえ」 そこでに、会話のに沈黙が落ちた。 やがて、義母が声を段く落とし、忍び笑いを含んだような調で語りかけたのだ。

「ねえ、ひろみ。こののことなんだけどね」 「え? このって……ここ?」 「そうよ。この広な敷と建物、そしてお父さんが残してくれた預貯……私がいなくなったら、全部あなたに相続させるわ」

麦茶のやかんの底がシンクに当たる音が、私ののでガランと異常にきく反響した。 ひろみさんが驚いたように声を潜める。 「えっ……でも、それってまだ先の話でしょ? それに、孝介お兄ちゃんはどうするのよ。男だし、ここで同居してるのに」

「孝介はいいのよ!」義母は吐き捨てるように言った。

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「あの子は男だし、の部品メーカーでしっかり稼いでるんだから。それにね、事に決めて遺言を作っておかないと、から嫁に横取りされたらたまらないでしょ。あんなに、田の財産を円たりとも渡したくないのよ。だから、全部あなたに残すの」

「……でも、お兄ちゃんたちがらない?」 「丈夫よ。あの子たちはこのにタダでまわせてあげてるんだから、文句を言われる筋いはないわ。ひろみには苦労をかけてるんだから、当然の権利よ」 「そっか……じゃあ、そのはありがたく貰っておくね」 母娘のくすくすとした忍び笑いが、苦しい湿気とともに台所へ流れ込んできた。

私はやかんを握りしめたまま、微だにできなかった。 背筋を氷の刃で撫でられたような戦慄がる。 財産を誰にどう配分するかは、確かに所者である義母の自由だ。孝介も私も、遺産目当てで同居していたわけではない。 だが、「嫁に横取りされないように」「あんなに円もやらない」という言葉の裏にある、私というへの底れぬ悪と排除の論理。 この、族のために尽くしてきた私のは、義母の目には「財産を狙う卑しい居候」としか映っていなかったのだ。

その疑惑の残酷さは、のお盆の親戚の集まりで、決定な確信へと変わった。

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本の座敷に親戚が集まり、私が朝から仕込んだ精料理や寿司を振るっていたのことだ。 義父の妹にあたる叔母のみよさん(歳)が、庭にめてあった青い子供用自転を見て目を細めた。 「陽太ちゃん、もう補助輪なしで自転に乗れるようになったのねえ。派だわ」

すると、座に座っていた義母が、扇子で元を隠しながら誇らしげに胸を張ったのだ。 「そうなのよ! の、陽太の歳の誕にね、私が買い与えてあげたのよ。『バーバ、青いのがいい』って言うから、番いいやつを奮発してねえ」 親戚同が「まあ、優しいおばあちゃんだこと」「恵まれてるわねえ」と々に義母を褒め称えた。

私は料理の載ったお盆を抱えたまま、座敷の敷居ので凍りついていた。 ――嘘だ。 その自転は、の、私と孝介がで自転へき、陽太が青と赤で分も迷った末に選んだものだ。 レジで自分のクレジットカードをし、万千円を支払ったのは、でもない私自だった。 あの、自宅へ持ち帰った自転を見て、義母は玄関先で「あら、派なね」と瞥しただけだった。 それがいつのにか、親戚のでは「優しい祖母が買ってあげた美談」へとすり替えられていたのだ。

その夜、すべての片付けを終えて疲れ果てた台所で、麦茶をみに来た義母が、流し台につ私に背から声をかけてきた。

「織さん」 「……はい」 義母はコップの縁を指で弄びながら、の悪い笑みを浮かべて私の顔を覗き込んだ。 「気にしてるんでしょ? ……遺産のこと」

臓がねがった。 「何を……ですか?」 「がっちゃって。昼の話よ。ひろみに全部残すって言ったのが、面くないんでしょ? でもね、の嫁が田の財産をあてにするなんて、お違いもいいところよ。そういうものなんだから、諦めなさいね」

義母はそう言い捨てると、使い終えたコップを流しのにすら置かず、蛇のの縁に無造作に放置して居へとっていった。 私は蛇の縁のコップを黙って洗い、伏せた。 指先が刻みに震えていた。 私がどれほど誠誠尽くそうと、このにとって私は永に「財産を狙うハイエナのような」なのだ。 そして、その歪んだ偏見を正す術は、このには何つ残されていないのだと悟った。

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