みかん小説
本棚

"「家は俺が守る」息子を信じた母、4年後の衝撃" 第6話

もうの母親

私はそのですぐ直へ話をかけることはしませんでした。りのまま息子を問い詰めれば、また別の言い訳をねるだけだとったからです。宅さんへ事を簡単に説し、今は無理に鍵を交換しなくていいと伝えました。

「の方はご親族なんですね」

「はい。でも、私がむことを許したではありません」

宅さんは驚いた顔をしましたが、それ以は聞かず、「何かあれば警察や専に相談してください」とだけ言い、作業代を受け取って帰っていきました。

私はぶりに、自分のへを踏み入れました。

玄関の靴箱。

壁に掛けたさな景写真。

廊のについた傷。

どれも昔のままでした。

夫と型具を運んだにつけた傷まで残っていました。古い材と線の匂いが混ざった、懐かしい空気が胸の奥へ流れ込みます。

「どうぞ……」

貞子さんが慮がちに言いました。

私は杖をつき、まず仏へ向かいました。

正の仏壇にはしいが飾られ、も替えられていました。線てもきれいに掃除されています。

「毎朝、おを替えています」

背から貞子さんの声がしました。

「直さんが、お父さんの仏壇は切だからって……」

私は言葉を失いました。

私には「は傷んでいて戻れない」と嘘をつきながら、直は貞子さんへ夫の仏壇の世話を頼んでいたのです。

広告

次に、階の奥にある寝を見ました。

そこは夫がくなった、私が使っていた部でした。

ところが、壁には以なかったすりが付けられていました。窓際にはしい器具があり、いベッドまで置かれています。

「この部、使っているんですか?」

私が尋ねると、貞子さんは慌てて首を横に振りました。

「使っていません。直さんが、絶対に空けておいてくれって」

「どうして?」

貞子さんは私を見ました。

「さんが帰ってくるかもしれないから、いつでも使えるようにって」

のが混乱しました。

戻れるように準備している。

それなのに、本である私には「戻れない」と言う。

を奪うつもりなら、なぜ私の部を残すのか。

帰ってきてほしいなら、なぜ私をざけるのか。

「貞子さん」

私は居へ戻り、向かいって座りました。

「あなたがここにんでいること、私は何もらなかったの」

貞子さんの顔から血の気が引きました。

「え……?」

「直から、度も聞いていないわ」

「そんな……」

「私は、あなたがんでいいなんて言ったこともない」

貞子さんは両を膝ので固く握りました。

「でも、直さんが……」

「何て?」

「さんが許してくれたって」

私は目を閉じました。

。

私が施設で、息子は忙しいのだと自分を慰め続けていた。

その同じ期、別の母親が、私の許があると信じてここで暮らしていたのです。

広告

「いつからんでいるの?」

「です」

ぴたりと致しました。

直が面会へ来なくなった期と。

「どうしてここへ?」

貞子さんはしずつ事を話し始めました。以んでいた賃貸宅が建て替えになり、退しなければならなくなったこと。だけでは隣の賃がく、しい部が見つからず困っていたこと。娘の理恵へ相談したところ、直が「母のが空いている」と言いしたこと。

「私は何度も、さんへ直接お礼を言いたいって言ったんです」

「それで?」

「施設で落ち着いているから、余計な連絡はしない方がいいって。直さんに止められました」

胸の奥がたくなりました。

「には何て聞いていたの?」

「さんは、このには嫌ないもいから、もう戻りたくないって言っているって……」

私はわずちがりそうになりました。

「そんなこと、度も言っていないわ」

声が震えました。

正と過ごしたです。

嫌ないどころか、私はこの、戻ることだけを考えてきました。

貞子さんの目に涙が浮かびました。

「私……どうしたら」

「まず、全部話して」

私は言いました。

「直から何を聞いたのか。ここへ来てから、何があったのか。おのことも、全部」

貞子さんはしばらく迷った、居の棚から冊の分いファイルを持ってきました。

「これも……見てもらった方がいいといます」

には、分の振込細と領収が、ごとにきれいに理されていました。

私は番の細を見ました。

毎万千円。

送先は、黒田直。

摘欄にはこうかれていました。

《宅管理協力費》

私はゆっくりと顔をげました。

「これ、毎払っていたの?」

貞子さんは頷きました。

「、ずっとです」

万千円。

で、百万円。

その数字を計算した瞬。

直の嘘が、単なる親切のき違いでは済まないことを、私は理解しました。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: