"7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った" 第13話
返された指輪
修が福岡支社へ来たのは、両親が帰っただった。受付からの連絡に、私は度だけく息を吸い、警備担当者に「予約のない私用の面会は受けられません」と伝えた。ところが修は会社の正面玄関からかず、通りかかった社員に私の名を尋ね始めたという。業務の妨げになると判断し、私は津田さんに事を説してから、受付の見えるロビーへりた。
修は私の姿を見ると、したように笑った。「やっと会えた。分でいい、話を聞いてくれ」。私はしれた所でち止まり、「ここで話せることなら聞く。職のには入れない」と答えた。彼のにはさな袋があり、にはのヘアピンと、で買ったペアカップの片方が入っていた。美緒が持っていったピンを、わざわざ取り返してきたらしい。
「これ、君のだろ。美緒にももう触るなって言った。あいつも反省してるんだ」
私は袋を受け取らなかった。修は「婚約式は延期でいい。君が落ち着くまで待つから」と続けた。彼の言葉には、私が戻ることが最初から決まっているような響きがあった。私は「待たなくていい。婚約は解消したし、気持ちは変わらない」と伝えた。修の顔から笑みが消え、「も緒にいたのに、そんなに簡単に終わらせるのか」と言った。
「簡単じゃなかったよ。
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だから、かかったの」
修は目を逸らした。私は彼が夜勤けの私を駅まで迎えに来てくれたことも、初めて仕事を任されたに祝ってくれたことも覚えている。優しかったがあったからこそ、ひどいことをされても、そのうち元に戻ると信じてきた。けれど、あの優しさを理由に、傷つけられ続けることまで受け入れる必はなかった。
「髪のことも、のことも、俺が悪かった。もう美緒には絶対にさせない」
「私が番つらかった理由、分かる?」
修は「止めなかったことだろ」と答えた。私は首を振った。「あなたは止めなかっただけじゃない。何をすれば私が泣くかっていて、教えた。私がれないと分かっていたから、して笑っていた」。修は何か言いかけたが、言葉を続けられなかった。彼が欲しかったのは、何をしても許してくれる私だったのかもしれない。
「もう度、説き直すよ。みたいに、俺が毎迎えにくから」
「みたいには戻らない。私も、もうの私じゃないから」
修は度だけ「おが本当に嫌がっているとはわなかった」と呟いた。私は、髪を切られた直に消してほしいと頼んだこと、顔わせの夜に泣いていたこと、何度も撮をやめてと言ったことをいした。嫌だという言葉は届いていた。それを本気として扱わなかっただけだ。
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私はその違いを、もう彼に説し続けるつもりはなかった。
修は昔、私が夜遅く帰ると温かいみ物を用してくれた。その優しさを私は何度もいし、今回も許す理由を探そうとした。しかし、優しかったが傷つけた事実は、優しさで相殺されない。私は彼を悪だと決めつけたいのではなかった。彼の隣にいると自分がどんなふうに扱われるかを、もう見ないふりできなかった。
私は修に袋を持ち帰るよう頼み、受付へ戻った。彼が声をしかけたところで警備担当者がづき、修はようやくへ向かった。、私は会社に面会拒否のを面で提し、私用の連絡は受け取らないようにした。誰かを憎むためではない。毎を落ち着いて働くために必な境界だった。
その晩、修は駅のくで、ペアカップの箱をけた。、い器で選んだ青いカップ。あのころの彼は、私を笑わせようとしていた。いつから、私が泣く顔を見たいとうようになったのだろう。い当たる面はあったが、もう確かめる相はいなかった。修はカップを箱に戻し、翌朝の幹線で静岡へ帰った。