"7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った" 第12話
分だけ
両親が福岡まで来たのは、第期の契約が決まった翌週だった。会社の受付から「ご族と名乗る方がお見えです」と連絡が入り、私は会議を終えてからへりた。父は背広を着て、母は私が子供のころ好きだった菓子の袋を持っていた。けれど袋のは、妹が好きな甘い菓子だった。私はその違いに気づき、かえって議なほど落ち着いた。
「に帰って話そう。ここじゃ落ち着かないだろう」
父の言葉に、私は首を振った。「にはきません。のカフェで分なら話せます」。母は戸惑いながら頷き、父は満そうに計を見た。私はを窓際の席に案内し、み物を注文した。これまでは親が来れば、仕事を休んででも相をするのが当たりだった。今は会議の予定をかさず、自分の都を先に伝えた。
母は「今回は美緒を厳しく叱ったの。あなたももうらなくていいでしょう」と切りした。私は「私がをたのは、髪を切られたからだけじゃない」と答えた。の制にかれた言葉、卒業研究の資料、修の両親に会うの、何度も撮られた泣き顔。ひとつずつ話すたび、母は「覚えているわ」とさく頷いた。覚えていたのなら、なぜ度も止めてくれなかったのか。その問いに、母は答えられなかった。
「私が傷ついたとき、いつも『また次がある』って言ったよね。
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でも卒業研究の審査は、もう度受けられなかった。の髪も、切られるには戻らない。修とのも、笑われたも、なかったことにはできない」
父は両を膝に置き、「俺たちはそこまで考えていなかった」と言った。私はその言葉を聞いて、初めてしだけりが湧いた。考えていなかったから許されるわけではない。私はいつも相の事を考え、誰も困らないよう先回りしてきた。私のことを考えるが、にはもいなかったのだ。
「推薦の話も聞いた。おがあんな会を失ったなんてらなかった」
「らなかったんじゃない。私が話そうとしたとき、聞いてくれなかったの」
父は顔をげかけ、また伏せた。母は「ごめんなさい」と言ったが、そのあとすぐ「それでも親子なんだから」と続けた。私はその言葉を遮った。「親子だから、会うかどうかは私が決めたい。仕事へ突然来ないで。の所も教えません。連絡が必ならにしてください」。言いながら、私は自分のが震えていないことに気づいた。
父は「をるに言相談してくれれば」と言った。私は「相談は何度もしたよ。赴任の話も、のことも。でも返ってきたのは、族を優先しろという言葉だけだった」と答えた。父は元のをみ、何も言わなかった。あのでは相談することと、親の望む返事をすることが同じになっていた。
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母は泣き始めたが、私は席をたなかった。分のあいだ、最まで話を聞いた。それ以の約束はしなかった。になると、私は会計を済ませて「気をつけて帰って」と伝えた。父は「本当に戻らないのか」と聞いた。私は「戻りません」と答えた。それは父を罰するための言葉ではなく、私が選んだ活についての返事だった。
母は持ってきた菓子の袋を差しそうとして、を引っ込めた。「あなた、昔はこれが好きだったでしょう」とさく言う。私は「それは美緒の好きなお菓子だよ」と答えた。母は袋を見つめ、何も言わなかった。好きなべ物さえ違えていることを責めたかったわけではない。ただ、私をっているとい込むに、聞いてほしかった。
会社へ戻る途、瀬から業務連絡が入った。次の試験運用の程が決まったという。私は予定表をき、会議を予約した。両親が帰る幹線の刻を調べる必はない。私には、これからめたい仕事があった。福岡のはしづき始めていて、私はその変化を初めてゆっくり眺めた。