"7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った" 第2話
戻らないもの
美容師は私の部を見た瞬、はさみを持つを止めた。「ご自分で切ったわけではありませんね」と聞かれ、私は頷いた。のさが違うだけでなく、根元くまでく切られた部分があり、元の形に戻すことはできないという。内の鏡に映る私は、仕事帰りに疲れてち寄った客ではなく、何かを説する言葉をなくしたのように見えた。
「全体をくして、自然につなげてください。できるだけ入れしやすく」
美容師は必以に事を尋ねなかった。襟をえ、の量を揃え、最に鏡を枚使って仕がりを見せてくれた。が見えるい髪はいのほか軽く、首筋にが触れる。に修が好きだと言った髪型とはまるで違ったが、私自は初めて見る顔を嫌いではなかった。帰り際、美容師が「次は切りたくなったときに来てください」と言った。
に戻ると、玄関には誰の靴もなかった。母に話すると、元の祭りへ族でかけたという。朝は「美容から戻ったら緒にこう」と約束していたのに、美緒が混むにきたいと言ったらしい。母は「あなたは髪を切っていたんだから仕方ないでしょ。祭りは来もある」と答え、向こう側で台の音が聞こえた。
部の机には、の誕に修がくれたのヘアピンを置いていた。
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細い枝の形をした飾りで、の髪に度だけ似うものを自分で選んだのだと、彼は照れながら言っていた。ところが夜、帰宅した美緒の髪にそのピンが留まっていた。「私のものだから返して」と言うと、美緒は鏡を見たまま「お姉ちゃん、もう髪がいでしょ。使わないじゃない」と返した。
「それは修からもらった誕の贈り物なの。借りるなら先に聞いてほしかった」
修は靴を脱ぎながら「ああ、あれか。美緒のにってるし、貸してやればいいだろ」と言った。母は「たかが髪留めつで姉妹げんかしないで」とため息をつき、父はテレビの音量をげた。私のものを私が使わないと判断すれば、持っていってよい。いつのにかそれが、このの決まりになっていた。
私は部に戻り、机の引きしから古いクリアファイルをした。学の卒業研究発表の、提用の資料が消え、私は審査ににわなかった。美緒があとになって「探し物をしているお姉ちゃんの顔が面かった」と言ったときも、母は妹を叱らず「また会がある」と慰めた。代には制の背にひどい言葉をかれ、学期じゅう笑われた。族はそのたび、私がることを問題にした。
部の扉には鍵がなかった。美緒は昔から断りなく入り、化粧品やを持ちした。
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返してと言うと「族なんだから貸してよ」と言われ、母まで同じことを言った。私は事な証だけを鍵付きの類ケースに移し、仕事用のデータが入った端末は持ち歩くようにした。今まで何度も、そうしておけばよかったとった。
卒業、私は元の報システム会社に就職した。希望していた企業の選考ににわなかった理由を、父も母も「準備だったんだろう」と決めつけた。働き始めてからも、美緒の資格試験の申込を揃え、父の通院を記録し、母が忘れる公共料の引き落としを確認してきた。謝されたいとっていたわけではない。ただ、私がやればのが静かになるから、そうしてきた。
机の隅にあるノートには、度の赴任打診を断った付が残っていた。度目は母の誕の、度目は婚約の話がまとまった直だった。どちらのときも、私は自分の希望を番最にいていた。今、髪を切られたことで急に別になったわけではない。いあいだ見ないようにしていたものが、ようやく目のにはっきり現れただけだった。
夜分、私は津田さんに話をかけた。「福岡の件、まだにいますか」と尋ねると、相は拍置いて「もちろん。条件は昨お伝えしたとおりです」と答えた。私は赴任を受けると伝え、から引き継ぎに入れるか確認した。
話を切っても、族の笑い声は廊から聞こえていた。
私は転勤の条件をもう度読み直した。しい仕事には夜の緊急対応もあり、責任がくなることは分かっている。それでも、挑戦する価値があった。津田さんは度断った私に「次の会があれば、あなた自がどうしたいかで決めて」と言ってくれた。度目の返事を、ようやく自分の言葉で伝えられた。