"7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った" 第1話
はさみの音
「お姉ちゃん、婚約写真を撮るに髪を編んであげる。今は私に任せてよ」
妹の美緒がそう言ったのは、母が卓に祝い用の皿を並べている曜の昼だった。私は鏡のに子を運び、背に流した髪を妹に預けた。末に予定していた婚約披の事会まであとか。美容の予約を取り直すほどのことでもないとったし、妹が珍しく嫌よく話しかけてきたことを、私はしだけうれしくじていた。
首のろで髪が持ちげられ、次に乾いた音がした。ジョキッ、と、台所でいを切るような音だった。鏡に映った美緒のにはのはさみがあり、私の膝には黒い髪の束が落ちていた。背の半ばまであった髪が、ので揃いに途切れている。私は鏡のの自分が何をされたのか理解するまで、息を吸うことさえ忘れていた。
「切りすぎちゃった。お姉ちゃん、落ち武者みたい」
美緒が笑うと、父の隆志も聞をろして吹きした。母の佳代は「あら、むしろさっぱりしたじゃない。はすぎて暗かったもの」と言い、ソファに座っていた婚約者の修まで肩を揺らした。私は切り落とされた髪を本ずつ拾おうとして、やめた。何かけて伸ばしたか、ここにいる全員がっていたからだ。
に落ちた髪の束には、今朝、自分で結んだ細いゴムがついていた。
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美容へくたび、毛先だけえてもらい、切るさを何度も確かめてきた。妹はその束を先で軽く寄せ、「記に取っておく?」と尋ねた。父は「そんなもの捨てなさい」と言い、私が答えるに母がゴミ袋を広げた。
「ねえ、撮れてる? 泣くところまで入れたいんだけど」
美緒は器棚のにてたスマートフォンを指さした。画面には赤い録画表示がっていた。修の端末からい通音が鳴り、彼はそれを見て「百円、俺の負けか」と笑った。美緒が「分以内に泣く方に賭けたんでしょ」と言うと、父まで「分にしておけばよかったな」とを挟んだ。私が泣き始めるを、彼らは先に決めて待っていたのだ。
「撮をやめて。今すぐ消して」
声は自分でも驚くほど静かだった。美緒は「またそうやって空気を悪くする」とを尖らせ、修は「冗談だろ。も伸ばしたって、またえるじゃないか」と言った。父は妹の肩を持ち、母はに落ちた髪を見て掃除を取りにった。誰も、私の首筋に残った揃いな毛先を見ようとはしなかった。
私が髪を伸ばしていたのは、修に「い髪が番似う。結婚式でもそのままでいて」と言われたからだった。社会になったばかりのころ、私たちは狭いアパートの階段に並んで座り、夜のカップ麺を分けった。
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仕事で失敗した私を励ましてくれた彼の言葉は、当の私にとって特別だった。だから切らなかった。し邪魔になっても、暑いに結ぶのが面倒でも、彼がぶならとっていた。
携帯話が震えた。会社の福岡支社を任されている津田さんから、昨夜届いたメールへの返事を待っているという連絡だった。しい域医療システムのちげ責任者。の赴任で、当を含めれば今の収入のほぼ倍になる。私はその打診を、これまで度断っていた。最初は母に「くへくなんて親孝」と泣かれ、度目は修に「婚約するに引っ越す必があるのか」と止められたからだ。
「凛、いつまで黙ってるんだ。美緒だって謝っただろ」
修の声で顔をげると、美緒はもう別の画を編集していた。私はに落ちた髪をさな袋に入れ、卓の端に置いた。謝罪は度も聞いていなかったが、ここで確かめる気にはなれなかった。画面の向こうで、津田さんが「今夜を過ぎたら別の候補者に頼むしかない」といていた。
修は私が袋を結ぶ様子を見て「そこまで事にするか」と呆れた顔をした。私は何も言わず、袋のをに折った。鳴れば彼らの期待どおりになり、泣けば画の題名が完成する。自分の反応まで相のものにされるのが嫌で、私はただをかした。
私は返事の欄に、い文を打ち込んだ。まだ送信はしなかった。鏡のには、分のを無理やり切り落とされた女がいた。けれど、その女が何を失ったのか、族の誰として分かっていなかった。