"夫の愛人を家に招いた義母、3日後の悲鳴" 第2話
豊洲のタワーマンションとえた牛脂
夜分。 桜の運転するメルセデス・ベンツのセダンは、京湾からの湿った潮を切り裂きながら、豊洲のウォーターフロントにそびえつタワーマンションの駐へと滑り込んだ。 階建て、ベイエリアの夜景を望できる免震構造のハイグレードレジデンス。 このマンションの購入、億数千万円に及ぶ物件価格の千万円を全額キャッシュで支払ったのは、桜が代の過酷な勤務で貯め込んだ個の預だった。そして毎万円くに達する宅ローンの返済、額な修繕積と管理費の引き落としも、すべて彼女個の与座から寸分の狂いもなく引き落とされている。
専部へと続くプライベートエレベーターに乗り込み、最層フロアでりる。 な玄関ドアのにった桜は、無識にスマートロックのテンキーに指を伸ばしかけ、ふときを止めた。 暗証番号のパネルに並ぶ数字。 半まで使っていた番号は、義母の幸子によって勝に変更されていた。
『の番号はね、に破滅の相がてるって名な占い師の先が言ったのよ! うちの拓也の事業運を全部吸い取っちゃう悪魔の数字なんだって! だから、拓也の誕に変えておいたからね!』
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妻である桜の名義で購入し、桜がローンを全額払っているの鍵が、居候である義母の独断で、拓也の誕にき換えられたのだ。 あのの屈辱をいしながら、桜は吐き気を押し殺して夫の誕である桁の数字を打ち込んだ。 子音が鳴り、カチャリと解錠される。
玄関のがり框には、幸子の履く分い毛皮付きの級スリッパが転がっていた。 リビングへ続く廊にを踏み入れると、メインのダウンライトは消され、百インチの型ELテレビから放たれる毒々しい青いだけが、暗い部のでチカチカと点滅していた。 イタリア製最級カッシーナの革張りソファにだらしなく寝そべり、顔に真っな美容シートマスクを貼り付けた幸子が、韓国の憎劇ドラマに見入っている。
ドアの閉音を聞いても、幸子はテレビ画面から線を切かさず、マスクの隙からくぐもった声をした。 「おかえり。鍋にご飯の残りと汁があるから、適当に温めてべなさい。拓也は今夜も事な会で遅くなるそうよ」
桜はコートを脱ぎ、疲れたを引きずりながらキッチンのアイランドカウンターへ向かった。 そこには、桜自が自費で万円をして導入した、最型のスチームオーブンや型蔵庫が鎮座している。
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蔵庫をけると、成井や越のデパで幸子が買い込んできた級材が、溢れんばかりに詰め込まれていた。 形県産のA5ランク米沢牛のロース肉、産の塩ウニ、本千円の級オリーブオイル。 すべて、桜のクレジットカードで決済された材たちだ。
しかし――桜のために用されていたものは、何つなかった。 コンロのに置かれたル・クルーゼのいホーロー鍋の蓋をけた瞬、桜の腔をたくな獣脂の臭いが突いた。 鍋底に残っていたのは、すっかりえ切ってドロドロに濁った茶の割りと、表面に分く固まったい牛脂の塊だけだった。 数、話で拓也が調子の良い声で言っていた『母さんにおの分のすき焼きを準備させておく』という言葉の無惨な残骸。 鍋のには、肝の牛肉は破片すら残っておらず、菜の芯やネギの切れ端すらも見事に掬い取られただった。
桜は、たく凝固した牛脂のを、秒無言で見つめ続けた。 り狂うことも、涙を流すこともなかった。 臓の鼓すら定のまま、静かに、音をてずに鍋の蓋を閉めた。 あまりにも常茶飯事すぎて、もはや波をてる気力すら湧かなかったのだ。
彼女はパントリーの棚から、特売で買った百円らずのカップうどんをつ取りした。
気ケトルで湯を沸かし、プラスチックの蓋をけて注ぐ。 分、千万円を超える理のアイランドキッチンで、収千万円を稼ぎし、このタワーマンションの全費用と夫の会社を支える企業役員が、寂しくプラスチックの容器からカップ麺をすすっていた。
「ちょっと、桜さん」 シートマスクを剥がし、パタパタと顎を叩きながら、幸子がすりでキッチンへづいてきた。 その瞳には、居候の引け目など微もなく、気取りの遜なが宿っていた。
「来週の週末、曜は空いてるんでしょうね? 拓也がね、来週若起業の集まるワインパーティーに招待されたって言うじゃない。私も母親として同伴するんだから、みすぼらしい格好でくわけにはいかないのよ。持ちのコートはどれも型落ちで恥ずかしくて着られないわ」 幸子は桜の目のにちふさがり、命令するように顎をしゃくった。 「曜の午、座の越に付きいなさい。姑の買い物に嫁が荷物持ちとして付き従うのは当然の務めでしょ? 仕事が忙しいなんて言い訳、絶対に聞かないからね」
桜はカップうどんのスープをみ干し、ティッシュで元を拭った。 「……はい。曜の午、をします」 ここで逆らえば、夜まで延々と「酷な嫁」としての説教が続く。
波をてず、で済むことならで解決する――そのしのぎの妥協が、この怪物を肥え太らせていることに、このの桜はまだ気づいていなかった。