"昭和46年、優勝した妻に夫が告げた「帰るな」" 第5話
予約表の赤い線
翌朝、子はのあさひボウルへった。扉の向こうではピンを並べる械が試運転をしており、のワックスの匂いがいつもよりい。栗田は奥の事務で聞を読んでいた。子がの申込を見せると、「よう集めましたな」と驚き、利用を確認した。しかし予約表の曜の欄には、夜までなかった赤い線が引かれていた。
「これは、どなたの予約ですか」
栗田は鏡をした。「業さんから、会社対抗の会をきたいと話が来ています。まだ本決まりやない」。午だけでなく、昼休みの枠も含めて数週押さえたいという。数も料も子の教よりはるかにきい。栗田は商売として迷っていた。子は「おが続かんかったら困りますもんね」と言ったが、自分の声がたく響くのが分かった。
帰り際、青柳が追いかけてきた。「奥さん、教を諦めないでください。会社の会はに度なら調できます」。彼は点検のを縫って使える枠を記したを渡した。しかし曜午は業の候補となる。子は受け取ったを鞄にしまった。教に通いたいへ、また程が変わると伝えなければならない。最初の授業が始まるから、謝ることばかり増えていった。
午、子は業の受付へった。
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夫を呼びすのは結婚してから初めてだった。応接へてきた信夫は、妻を見るなり周りの社員を確かめた。「何でここへ来た。のことはで話せ」。子は「予約のことです」と答えた。「教を始めるは、あなたの会社の会に使うんでしょうか」。信夫は目を伏せず、「会社の仕事を優先するのは当たりや」と言い切った。
「会社は悪くないでしょう。私が所を借りようとしていること、っていたのはあなたです」
「俺が会社に恥をかかせられるか」
「私の教が、どうして会社の恥になるんですか」
信夫は返事をしなかった。代わりに「帰ってこい。そしたら余計な話をせんで済む」と言った。子は子の背を握り、しばらく考えた。鳴り返せば簡単だったかもしれない。しかし会社に迷惑をかけることは、教を待つ女性たちの願いとも違う。「私は戻るかどうかを、予約の条件にはしません」。そう言ってった。
夕方、教の参加者が桂子のに集まった。京子は「うちのの営業をずらせばええ」と提案し、澄子は「いっそのこと別のボウリングを探したら」と言った。いでは交通費が掛かり、子どもの迎えににわないもいる。初枝が「私の都で皆に迷惑かけるくらいなら、やめとくわ」と申込を引こうとすると、子は止めた。「誰かが抜けたら成りつ教やったら、最初からつくるがないんです」
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そこへ栗田から話が来た。子が受話器を取ると、支配はひどく疲れた声で言った。「つだけ、今すぐ確かめてほしいことがあります」。業から来た正式な申込には、会社名と催希望だけでなく、追加条件が記されていた。女子教を別のへ移すか、閉じること。しかも、その条件については栗田に決めさせる文面ではなかった。
「申込に、子さんの名があるんです。『本承済み』と」
子は受話器を握り直した。「私は承してません」。栗田はしばらく黙った、さらに続けた。「そのに、ご主の署名があります。けど、今持ってきた社員さんは、『奥さんから預かった枚がある』と言うんです」
子の背筋がたくなった。娘と桂子が見守るで、彼女はようやく声をした。
「その枚、私の字でいてありますか」
「ええ。あなたの教の申込です。分の名まで、全部写してあります」
子は受話器を置くに、もうつ尋ねた。「そのには、料の欄もありますか」。栗田は「あります。こちらではまだ決めていないはずの値段が、もう印刷されてる」と答えた。子は目を閉じた。もしその値段を信じて入会したがいたら、誰が説するのだろう。夫婦のけんかのつもりだったものが、自分を信じて申し込んだへの約束にまで入り込んでいた。
机のに置いたはずの申込は、確かに枚あった。だが、参加者の連絡先をいた控えが枚だけ見当たらない。子はつい先ほどまで、その控えを信夫には度も見せたことがなかったとっていた。