みかん小説
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"昭和46年、優勝した妻に夫が告げた「帰るな」" 第2話

弁当箱の底

信夫は気炊飯器の目盛りを見て、米を入れた。妻が毎朝どのくらい炊いていたのか分からなかったのである。をめにしたら、炊きがりは柔らかくなった。卵をつ割ると、つは殻が鍋へ落ちた。聞を敷いて慌てて詰めた弁当は、蓋を閉めたに黄い汁が漏れた。

「由美、おの分もつくったから持っていけ」

制の娘は弁当を覗き込み、しばらく黙った。「ありがとう。でも私、今は購買でパン買う」。信夫は「贅沢を言うな」とりかけたが、自分の弁当の底からも汁がているのを見てを閉じた。娘は学へる、戸で振り返った。「母ちゃんに謝るなら、トロフィーも返しや」。信夫は返事をしなかった。

子がを寄せたのは、駅で理髪の階を借りている旧友の柳田桂子のだった。桂子は夫を病気でくしてから、をで切り盛りしている。朝、子が布団を畳むと、桂子は鏡越しに言った。「泊めるのはええけど、ここを逃げ所にしたらあかんで。これから何をするか決め」。子は「そうやね」とだけ答えた。

商へると、の妻が声をかけてきた。「昨の優勝、見たわ。うちの姉も習いたい言うてる」。それが目だった。会の帰りから、商をしている婦や菓子の若い嫁にも同じことを聞かれていた。

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みんな自分のの都を考え、昼にだけなら参加できると言う。しかし子が球を投げるのがうまいことと、に教えられることとは別だった。

あさひボウルの入には、女子プロ選の写真が並んでいた。テレビにも映る選たちに憧れ、若者が学帰りに通うようになっていた。子は写真ので靴の先を揃え、支配の栗田に会いたいと受付で告げた。昨は気のよかった栗田も、教の話になると帳簿をした。

「お客がない曜のなら、レーン貸せる。ただし、遊びで集まってもらっては困る。指導するが責任を持って、料もまとめて払う。それが条件です」

「私はプロやありません」

「分かってますよ。だからこそ、あなたに来てほしい。プロの見せる球は派やけど、初めての奥さんには、まず靴の履き方から教えるがいる」

栗田は枚の利用表を差しした。毎週レーンを借りるなら、なくともは必になる。賞の万円を使えば最初の数週は乗り切れるが、そのまで続く保証はない。子は利用表を借り、商の喫茶でナプキンに計算をいた。へ帰るには、まだ気持ちの理がついていなかった。けれど教を始めるには、まず勘定がる。

夕方、信夫がボウリングへやってきた。

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受付の青は、主が妻を迎えに来たとって声をかけた。「榎本さん、奥さんならさっき支配とお話しされてましたよ」。信夫は眉を寄せ、「どんな話や」と聞いた。青が教の説をすると、信夫はく笑った。「うちの内は、そんな責任のあることを引き受けられる女やありません」。それを聞いた栗田が事務からてきた。

「引き受けられるかどうかは、奥さんに決めてもらいます」

信夫は面らった。普段なら妻のことを尋ねられると、誰もがの主である自分に返事を求めた。栗田は妻本の署名がなければ予約を受け付けないと言い、受付に戻ってしまった。信夫は何も買わずへた。帰り、会社の部である鹿島に偶然会い、妻の会優勝が職でも話題だとらされた。

「奥さん、えらい名になってますやん。うちの営業課でも、負けておられへんな言うてます」

笑顔でそう言われたのが、信夫にはひどくこたえた。帰宅すると由美は宿題をしており、炊飯器のは朝のご飯のままだった。娘は父を見ずに言った。「母ちゃん、教やるんやってね。お父ちゃんがらんだけで、もう習いたい、ぎょうさんいるんやで」。信夫は聞をいたが、同じを度読んでもに入らなかった。

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