"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第15話
帰れなかった理由
へ入った淳さんは、最初に瓶を見た。
「湯……」
「毎朝沸かしていました」
私はし悪く言った。
「誰も使わないのに」
淳さんは何も言えなくなった。
私は座布団をし、朝を温め直した。
分の茶碗をしていたことをいす。
偶然だった。
いや、偶然でいい。
淳さんのに茶碗を置くと、彼はしばらく見つめた。
「私が今帰るとっていたんですか」
「るわけないでしょう」
「では、なぜつ」
「何となくです」
それ以説するのが恥ずかしくなり、噌汁を置いた。
淳さんはすすった。
目を閉じた。
「……うまい」
その言で、に戻ったようだった。
私は泣きそうになり、わざと素っ気なく答えた。
「噌が変わりましたから、昔とは違います」
「それでも、うまいです」
事を終えてから、淳さんはしずつ帰還が遅れた理由を話した。
戦で負傷し、すぐに移できる状態ではなかったこと。終戦も混乱ので帰国の順番を待ち、別の所でく療養することになったこと。をせない期が続き、自分がきているというらせさえへ届けられなかったこと。
「吉岡さんが来てくださいました」
「吉岡が?」
「あなたが私の話をしていたそうですね」
淳さんは黙った。
「『うちのキヌ』って」
まで赤くなった。
私は初めて見た。
このは、こんな顔をするのだ。
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「では名も呼ばなかったのに」
「……すまない」
「またそれです」
でし笑った。
そのあと、私は役所から届いた通を見せた。
淳さんはいそれを見つめた。
「んだことにされかけていたんですね」
「私は信じませんでした」
「なぜ」
「くなったところを誰も見ていないからです」
淳さんは私を見た。
「本当に、ずっと?」
「待っていました」
その言葉を聞いた瞬、淳さんの顔から笑みが消えた。
「キヌ」
「はい」
「私は、それをさせたくなくて縁したんです」
「っています」
「だったら」
「だから腹がっているんです」
私は初めて、本気で淳さんを睨んだ。
「私のなのに、どうして旦様が決めるんですか」
淳さんは返す言葉がないようだった。
「私が待つか、待たないか。再婚するか、で暮らすか。それは私が決めることです」
「……はい」
「あなたは私を叔母のから救ってくれたつもりかもしれません」
「そんな層なことは」
「でも、私にとってはそうでした」
私は続けた。
「このへ来て初めて、嫌なことを嫌だと言っていいのだとりました。だから叔母の縁談も断れたんです」
淳さんは黙って聞いていた。
「なのに、そのあなたが私に何も聞かず縁した。それだけは許していません」
い沈黙。
やがて淳さんがをげた。
「その通りです」
私は驚いた。
言い訳をするとっていた。
「怖かったんです」
淳さんが言った。
「何がですか」
「帰れないことが」
声がかった。
「自分がぬことより、あなたを残すことの方が怖かった。だから、縛らないことが番だとった」
「でも縛られました」
「え?」
「記に」
淳さんが顔をげた。
「読んでしまったら、もうののところへなんてけません」
困ったような顔をする。
私はし笑った。
「責任を取ってください」
「責任?」
「記の最にいていましたよね」
淳さんの顔が固まった。
私は覚えていた文章を、そのまま言った。
「帰ってきて、まだ私がいたら、初めからやり直したい、と」
淳さんはい、何も言わなかった。