"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第9話
帰る所を守る
そののは暑かった。
町から若い男の姿が減り、残された女たちと老、子どもたちができる仕事を引き受けていた。私は縫い物だけでなく、所の共同作業にもるようになった。
以の私は、で自分から話すことが苦だった。
何かを頼まれれば「はい」と答えるだけ。
見を聞かれても「皆さんのいいように」と言っていた。
けれど暮らしを始めてから、それでは済まないことが増えた。
配のこと。
の修繕。
畑の。
誰かが決めてくれるのを待っていては、暮らしていけない。
しずつ私は変わっていた。
その変化に自分で気づいたのは、いがった夜だった。
根の部からが落ちてきた。
以なら途方に暮れ、誰かに助けを求めただろう。
そのは桶を置き、翌朝には所のへ自分で相談へった。費用を聞き、持ちのを数え、部だけ修理してもらうことにした。
「野さんが帰ってきたら、びっくりするね」
が根のから笑った。
「奥さん、すっかりしっかりした」
「奥さんではありません」
私はわず答えた。
が困った顔をしたので、私も笑った。
「でも、帰る所は守っておきたいんです」
それが番正しい言葉だった。
法律の関係が何であっても、このには淳さんが戻る。
そう信じていたかった。
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庭の柿が実った。
私はいくつか干し柿にした。
はでべる気になれず、ほとんど所へ配ってしまった。今はつだけ、淳さんの分として残した。
「腐っちゃうよ」
志乃さんに言われた。
「そのは、そのです」
笑って答えた。
しかしがけても、淳さんは帰らなかった。
吉岡さんから聞いた「きていた」という報よりしいらせは何もない。
それでも私は待った。
戦況はさらに厳しくなり、やがて町にも空襲への備えが求められるようになった。灯管制で夜の々からかりが消える。
暗のにいると、が増した。
淳さんは今、どこにいるのだろう。
空を見げているのか。
眠れているのか。
怪をしていないか。
それでも私は、最悪の像を最まで考えないようにした。
ある夜、警報が鳴った。
私は非常袋を持ってへた。
所のたちとを寄せいながら、の方を振り返った。
もしこのがなくなったら。
淳さんの帰る所も、記も、も全部なくなる。
恐怖でが震えた。
幸い、その夜は町にきな被害はなかった。
警報が解除され、へ戻った私は真っ先に文机をけた。
記とを取りす。
その晩から、私はそれらをさな布袋に入れ、非常袋の番奥へしまうことにした。
翌朝も湯を沸かした。
どんなでも、それだけはやめなかった。
湯気を見ると、あのの朝をいせた。
「あなたは慣れなくていい」
淳さんの声がに残っている。
あのまで私は、辛いことには慣れるしかないとっていた。
けれど、淳さんは違うき方があることを教えてくれた。
だから今度は私が、このを守る。
いつ帰ってきても、たいに触れなくていいように。