"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第8話
戦から戻った男
葉にかれていた男は、吉岡正と名乗っていた。
にこちらを訪ねたい、とあった。私はその、ほとんど何もにつかなかった。
淳さんの戦友。
その言葉から、良いらせを像することができなかった。
もし元気なら、本が便りを寄こすはずだ。
くなったから、代わりに誰かがらせに来るのではないか。
何度もそう考え、そのたびに打ち消した。
訪問の。
昼過ぎに玄関が叩かれた。
っていたのは、歳ほどの痩せた男だった。をわずかに引きずり、子を胸のに持っていた。
「野さんのお宅でしょうか」
「はい」
「吉岡と申します」
私はくをげた。
座敷へ通し、茶をした。
湯呑みを置く私のが震えていることに、吉岡さんも気づいたのだろう。
「先に申しげます」
男はまっすぐ私を見た。
「野は、私が最に見たにはきていました」
息が戻った。
胸を押さえたくなった。
「……いつですか」
「半ほどです」
半。
便りが途絶えてからかなり経っていた。
吉岡さんは、話せる範囲で当の状況を教えてくれた。
部隊が移する途で混乱が起き、吉岡さん自は負傷して送された。その、淳さんはまだ歩けていた。なくとも、そこで命を落としたわけではないという。
「野は最まで、の話をしていました」
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「の……」
「ええ」
吉岡さんはし笑った。
「柿のが本あると言っていました。のがたくて、奥さんのがすぐ荒れる、とも」
私は俯いた。
涙が膝に落ちた。
「縁されています」
わず言った。
吉岡さんが怪訝そうにした。
「え?」
「征のに、私たちは縁しました」
「そんなはずは……」
吉岡さんはらかに驚いていた。
しばらく考え、やがて苦笑した。
「あいつらしいと言えば、あいつらしいかもしれません」
「どういうことですか」
「野は、あなたを妻だとっていましたよ」
胸が詰まった。
「何度も言っていました。『うちのキヌは』って」
私は顔をげた。
「名を……?」
「ええ。よく」
では度も呼べなかった名を、い戦では何度もにしていた。
笑しくて、しかった。
「をすたび、何をけばいいか悩んでいました。くくと配させるから、と」
あまりに淳さんらしい。
私は泣きながら笑った。
吉岡さんは帰り際、枚のさなを渡した。
「これは野から預かったものです。私が先に帰れることになった、『もしのくへくことがあれば』と」
には、たった。
『柿のは元気ですか。』
『キヌも元気でいてください。』
私は胸に抱いた。
きている。
なくとも半までは。
それだけで、また待てるとった。
ところが翌週、叔母がやってきた。
今度はではなかった。
隣には見らぬの男がいた。
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「キヌ、もう分だろう」
叔母は玄関へ入るなり言った。
「野さんが戻る保証はない。今はきちんと話をつけに来たよ」
私は男を見た。
をいくつか過ぎているだろう。商の主らしい派な羽織を着ていた。
以、叔母が言っていた縁談の相だとすぐ分かった。
「私は再婚しません」
「いつまでそんなことを言うんだい!」
叔母の顔が赤くなった。
男は気まずそうに線を逸らした。
私は初めて、叔母に玄関から先へがることを勧めなかった。
「叔母さん」
静かに言った。
「私はもう、自分のことを自分で決めます」
「恩らず!」
その言葉は昔なら胸を刺した。
けれど今は違った。
「育てていただいたことは謝しています」
私はをげた。
そして顔をげた。
「でも、謝することと、言う通りにすることは違います」
叔母は言葉を失った。
私は玄関をけた。
「今はお帰りください」
それが、私が叔母の言う「族」から本当のでれただった。